箱庭療法記

人々がきらきらする様子に強い関心があります。

171022 台風が来る。景色が変わる。

 台風がやって来ても嬉しくなくなったのはいつからだろう。THE BLUE HEARTSが台風の暴力性とその快感について高らかに歌い上げていた。高校生の頃は大雨の日にいつも聴いていた。
 そういうわけで今日は、本来予定していた免許更新に行くことができずに引きこもっていた。4年前の更新からハンドルを握ることもなくゴールド免許の資格を手に入れ、その代わりに運転技能を失った。ゴールドドライバーは引きこもって欅坂のパフォーマンスを観ていた。昨夜のNHK特番の新曲フルサイズ。ユニット「五人囃子」の新曲「結局、じゃあねしか言えない」の佐藤詩織のピルエットがさすがバレエ経験者だけあって美しく、回る彼女を何度も何度も観ていた。足の裏の支点の上に伸びる仮想的な回転軸と脚の実体とが一致するとすげえ綺麗なんですよ。回る瞬間に少し体が浮き上がるのはそういう理屈で、つま先を伸ばして脚をまっすぐにしようとするから。体重移動も軽やかで、ステップも一歩が大きくも落ち着いていて。バレエ経験者のいるユニット曲にターンの多い振り付けを割り振るのは理に適っている。五人囃子は衣装もダンスとマッチしている。全国ツアーのそれと同じ衣装(幕張の「少女には戻れない」のダンスで、ゆったりとした回転でスカートの裾を円形に広げながらステージ上の段差を滑る佐藤詩織と、彼女の回転を上から映したモニター映像に大興奮したのはまた別の機会に残しておこう)のシースルーのロングスカート。シースルーのロングスカートで踊るのは、おそらく透けないロングスカートもしくはパンツで踊るのより綺麗に見せるのが難しいだろう。裾の広がりの綺麗さだけではなく、透けて見える脚の美しさも要求される。奇しくも昨日の「シブヤノオト」で石森虹花が「風に吹かれても」をスーツで踊る難しさについて同じことを言っていた。つまり、パンツ衣装は脚を誤魔化すことを許してくれないと。したがって、シースルーのロングスカートで踊ることには二重の技能が求められる。佐藤詩織はあまりに美しくやってのけた。素晴らしいものを見せて頂いたなあと、感謝していたら昼が昼下がりになっていた。綺麗な脚裁き自体はバレエを観賞すれば目にすることができるけれど、メンバーの全員がダンスの専門的な訓練を受けているとは言えないアイドルグループのダンスで(ということは優秀な振り付け師がいたとしてもどうしても不揃いさが顕れてしまうダンスで(不揃いさもまた魅力であるという話は別として(実はそれこそが肝であるのだが)))ふとした瞬間にこうしたまっすぐな美が立ち上がってくると、彼女らの背景の多様さが香ってきて、ああ、アイドルのファンになってよかったなと感謝の気持ちが芽生える。感謝の念が芽生えました。ありがとうございました。
 と、思ったより興が乗ってしまったからオチてしまったのだけれど、佐藤詩織とピルエットと感謝に加えて、あともう一つ書いておきたいことがあってわざわざブログの画面を開いたのだった。
 嵐の中で近所のラーメン屋に行った。時系列としては前段より1時間くらい前になる。麺はうまくもなくまずくもなくで別にどうでもいい。重要なのは店内音楽だ。えらく聞き覚えのある歌声がスピーカーから聞こえてきた。歌手と歌詞から曲名を調べると菊地真我那覇響の「ブルウ・スタア」。つい先日出たばかりのミニアルバムの曲。きちんと追ってなかったから(理由は敢えて書くまいが)曲調さえ把握していなかったのだが、いや、だからこそグルーヴィな曲調が耳に残った。音楽体験として得難くアイドルソングらしい体験だった。台風でジーンズの裾をズブズブに濡らしながら入った開店直後のラーメン屋。やや外したかと軽い後悔を覚えながらメニューを熟読していると、耳に入ってくるのは僕の知っている歌声の僕の知らない曲。歌詞を調べて「あっ、新曲出したらしいけどこんな曲なんだ、やるじゃん」って。麺を適当に啜って会計を済ませてイヤフォンを耳に詰めて傘を開く。「19のときは真ちゃんのこと大好きだったなあ」なんて思い出しながらスマートフォンのミュージックアプリで彼女のソロ曲「絶険、あるいは逃げられぬ恋」を選択。彼女のキャラクター性、もっとざっくばらんに格好良さに寄り添いながら、しかし彼女の内面とは適切な距離感を有した一曲。「いい曲もらってたんだなあ」って、その数分間だけ過去にトリップする。自然と他のアイマス楽曲を選びながら部屋まで帰る。部屋に帰って前夜のNHKのアイドル特番を観直すことを想像しながらもイヤフォンからはアイマス楽曲。
 アイドルマスターがシームレスに『アイドル』として(『ゲーム』ではなく)生活に確かに存在してくれた。
 台風の大雨が嬉しくなくなっても、嬉しいこと、感謝すべきことはいくらでも見つけられるようになるんだなあって。そんな一日でした。

170806 おしらせ

 物語は情報や報告のように純粋にそのこと「自体」を伝えるものではない。物語はそのことを語り手の生の中にいったん沈めてからもう一度取り出す。だから、陶芸家の手の跡が陶器の皿に残るように、語り手の跡が物語に残るのだ。
――ヴァルター・ベンヤミン「語る人」

 

 C92の新刊『アイドルのための物語』を入稿しました。そちらについてはトップの告知用のエントリをご参照下さい。このエントリは別件についてのおしらせとなります。

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170731 原稿って書けない

 原稿が書けない。もうダメだ。あと、twitterを見てる方はご存じかと思うけど欅坂46に一瞬でハマった。twilogによると5月14日に「二人セゾン」のMVで殴られて以来、6月7月と欅の話しかしてない。あとたまにアイマス。SFとは、幻想とは……。ついに7月22日、23日に欅の富士急ワンマンに行った。女性メジャーアーティストのライブは初めてだったが、爆発的なエネルギーに圧倒されていた。ライブの感想をまとめたいのだけれど、原稿のプレッシャーに狂いつつあるからまた落ち着いたらtwitterやメモを参照しつつやっていきたい。

 原稿って、書けない。

170522 アイドルのライブに行ってきた(最高の日曜)

 sora tob sakanaのライブに行ってきた。

 ハイスイノナサというポストロックバンドを知っているだろうか? コンセプチュアルなサウンドと伸びやかな女性ボーカルが特徴的なポストロックバンドである。とりあえず動画を観てほしい。


ハイスイノナサ"地下鉄の動態" (haisuinonasa"Dynamics of the Subway")*1

  動画を観て満足して読むのをやめてくれても構わないのだが、ハイスイノナサは女性ボーカルの鎌野愛氏が抜けて*2やや小休止しているバンドなのだ。

 前置きが長くなったが、ハイスイノナサの中心的人物であるところの照井順政氏(ギター兼コーラス)が現在プロデュースしているアイドルがsora tob sakanaである。


サカナ日記27日目 「広告の街」ダンス映像


sora tob sakana / ribbon(MV)

 ハイスイノナサのキレッキレの音に未成熟な女性ボーカルが乗っかると、とてもいいことがわかる。月2くらいのペースで定期公演が開かれている。最近は2枚目のアルバムが出たのでタワレコで頻繁にインストアライブもやっている。

 sora tob sakanaはアイドルなので現場に行くことが出来る。

 私はこれまでアイドル小説を書いていながらこれまでアイドルという人々のライブに行ったことがなかった。

 ということで、人生初めてのアイドル現場はsora tob sakanaとなった。

f:id:yobitz:20170521133603j:plain

*1:学部時代に舞台をやっていたころに映像まで含めて影響をモロに受けた動画。いま思うと微笑ましい。

*2:新しい方が加入したのだが新曲はまだない。鎌野氏は元the cabsの高橋國光と組んだりしている。こちらも良い。 https://soundcloud.com/onlyifyoucallme 

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170516 告知、あるいは私はどのようにして同人誌を完成させるのか

  • 告知
  • 副題に関して
  • エントリを書いた背景
  • 『冴えた約束の破り方』でやりたかったこと
  • 「魔法が解けるとき」について
  • 『冴えた約束の破り方』が生まれるまで、の前に宣伝
  • 『冴えた約束の破り方』が生まれるまで

告知

  5月20日のISF03にて松田亜利沙中心の小説本『冴えた約束の破り方』を頒布しました。

【2017年5月20日現在の最新情報を反映】 

 

 メロンブックスに委託中。

 

 

副題に関して

 今回の本は私にとって非常に手応えがあった。これまでの本で最も感情が乗った。したがって「あるいは私のどのようにして同人誌を完成させるのか」ということで今回の同人誌を作ったプロセスを解説していく。ほとんど覚え書きなので「ふ~ん、コイツはこうやって作ってるんだ~」くらいの温度感で読んで頂ければ幸いである。

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170416 休日 

 就職した。4月3日から関西でしばらく研修があり、12日に横浜に移り住んだ。今日はその記念すべき最初の週末。
 土曜は朝起きて、二度寝して、昼間に起きて残りは荷解き。二度寝は悪魔的だ。学生時代のルーチン化した二度寝とは違う、固い意志で敢行する、一種のチャレンジである。休日が貴重だからこそ、その魔力はさらに増した。部屋はワンルーム。自室にベッドがあるのは初めてで環境作りにやや戸惑ったが、ベッド下の空間はたしかに収納に便利だ。こと、この部屋は夜寝て朝起きるだけの空間であるから、いちいち布団を上げ下げするのも億劫であろう。適当に頼んだ寝具三点セットの枕が身体に合わないのだけが不満である。給料が入ったらまずは枕を探したい。
 日曜日は考えられる限り最高の日曜日であった。いつも通りに6時に目を覚まし、二度寝してもまだ9時。そこから軽く読書し、最寄り駅前のジムに。カロリーの消費というものを考えたときに、水泳とは可能な限り最善の方法である。1時間かけて1キロほど泳ごうと思い描いていたが10年ぶりの水泳に私の身体は悲鳴を上げた。500メートルでものの見事に土左衛門と化した。これから週3、4で通いたい。昼は近所の(明日で閉店の)中華。主菜の量はしっかりあって辛さ抜群、ご飯はおかわり自由。失うには惜しい店だ。午後は喫茶店を探しに関内まで。喫茶店不毛の地かと思いきや(京都と比べてしまうとどうしてもそうなる)followerの方々に教えて頂き、なかなかなスポットに辿り着くことができた。カプチーノが別格。気さくな店主と常連との会話は、プロットを練るのにはちょうどいいBGMだった。キーボードを叩くにはやや店主と客が近すぎるようだから、とりあえずは読書や軽い作業用だろう。夜はとんかつ。いまは心地よい疲労感と満腹感に満たされている。
 素晴らしい週末だった。素晴らしさを積み重ねていきたい。