引っ越しの用意で比較的ごたごたした日が続いています。本棚を整理しているとSF初心者な友人に貸し付けた『BEATLESS』と『Self-Reference ENGINE』が返っていないことに気づきました。両作品ともキツイかなと思いながら貸したところ案の定だったので、「読みやすい」「俺が好き」の2点に焦点を絞って5作のおすすめ作品を紹介します。10選の方がキャッチーだとは思うのですが、1冊3~5時間、700~1200円と考えると10作品って結構重いです。それに5作品だと絞る選者の嗜好を色濃く出せるので。ヒトが人間でいられなくなる姿を描いたSF*1を選びました。
1.『あなたの人生の物語』(テッド・チャン)
テッド・チャン唯一の短編集。1作目「バビロンの塔」を飛ばして「理解」か「あなたの人生の物語」から読み始めると取っつきやすい*2。「理解」は知能を薬剤で強化した人間の対決。凡人が知能を高める過程から超人同士の力比べに至るまで全てがひたすら格好良い。現代社会での「頭の良さ」を描くことに全振りしたような作品。「あなたの人生の物語」は言語SF。認識と言語が相互に作用するならば、認識の方法がヒトと違う知性体の言語はどうなるのか。そういった疑問から描かれた。珠玉の短編集なのでお得感が強い。
2.『幼年期の終り』(アーサー・C・クラーク)
とりあえずこれだろといった感。知的生命体の襲来と全球規模の変革、怒濤のラストと掴み所のある作品。特に、芸術家の島のくだりから結末にかけてはユートピアめいた自適な生活と圧倒的知性に支配されている微かな抑圧が入り交じって本当に美しい。訳文も平易で読みやすいのがグッド。
3.『ハーモニー』(伊藤計劃)
最近の日本のSFで短めで平易で読みやすくて尚且つポストヒューマンだと自然とこれに絞られてくるかなと。管理社会に反抗する女性たちのお話です。真っ白な文庫版の表紙と同じく、科学技術で漂白された社会で白く脱色されることを拒む少女の生き様が凄絶。『幼年期の終り』の結末を人為的な形で描こうとするとこうなるのかななんて考える。
4.『ブラインドサイト』(ピーター・ワッツ)
遺伝子操作で生まれた多様な人間が同居した宇宙船が宇宙探索に出掛ける物語。吸血鬼から四重人格者など色物揃い。珍道中のユルい雰囲気がシリアスに変貌していく様がドラスティックで興奮する。また物語の構造が「問題の発生」「解決」「解決に伴うさらなる問題の発生」と明快で全体像がわかりやすいので、テーマに反して読みやすいのもポイント高い。解説で『ハーモニー』に触れている。
5.『ひとりっ子』(グレッグ・イーガン)
イーガンの短編集のひとつ。「ふたりの距離」「真心」のようにエモい作品、「ルミナス」「行動原理」のように硬質な作品、それからIFモノの「オラクル」などバランスのいい作品集。『TAP』以外のイーガンの短編集なら『しあわせの理由』を始めとしてどれでも楽しく読めるだろうけれど、バリエーションに富んだこれを推しておく。
以上5作品でした。SFやもっと言えば趣味なんて掃いて捨てるほどあるから、これらが読めなかったところで他の作品を読めばいいし或いは読まなくたって全然構わないけれど、とにかく肩の力を抜いてSFに触れてくれればなと思います。