箱庭療法記

人々がきらきらする様子に強い関心があります。

14/03/31 春期休暇に読んだSF

春期休暇に読んだSFの一言感想。優良可不可で五十音順。

国内作家だと円城塔飛浩隆長谷敏司宮内悠介の既刊を全て読んだことになる。

Post Project Itohとして大々的に売り出された宮内悠介だったが、全体的に作品のタネが露骨過ぎるきらいがあるのであまり期待できない。固有振動数とかサピア=ウォーフ仮説とか真面目なSFの根幹に使っちゃダメだろ。

 

-----優-----

『グラン・ヴァカンス 廃園の天使I』(飛浩隆)

廃園の天使シリーズの1作目。理想的な別荘地帯と仮想空間のAIに与えられる生々しい苦痛が鮮烈だった。AIをその格子に監禁した硝子の檻が印象的。

『ラギッド・ガール 廃園の天使II』(飛浩隆)

シリーズ2作目。〈グラン・ヴァカンス〉では悪意の権化に思えたランゴーニと白衣の女が〈ラギッド・ガール〉では生き生きと感情豊かに描かれ、〈数値海岸〉が区界〈汎用樹〉のように立体的な姿を帯びた。素晴らしい。3作目はまだか。あと、THE IDOLM@STER空間を〈数値海岸〉で展開するとすっげえ楽しそうだと思った。

『My Humanity』(長谷敏司)

前の記事参照

オービタルクラウド』(藤井太洋)

現代日本が舞台のSF。骨太なワンアイデアを中心に据えて緻密で豊富な小道具で脇を固めた。疾走感が心地よかった。映像化するといい。

 

-----良-----

烏有此譚』(円城塔)

延々と連鎖する脚注が笑えた。後編は理解しがたかったものの、円城塔の小説の書き方が伺えた。数理的な図を文字に起こすというもの。

『テキスト9』(小野寺整)

翻訳モノ馬鹿SF。前半は最高だった。全編を通して現実感のない夢物語。一方で円城塔の巧みさが思い起こされた。小野寺整にはこれからも期待。

『象られた力』(飛浩隆)

「デュオ」が白眉。音が聞こえた。

『皆勤の徒』(酉島伝法)

もしもあと2回くらい読むことができたら手を叩いて褒めちぎりそう。

『都市と星』(アーサー・C・クラーク)

クラーク得意の清潔感に充ち満ちた未来都市のお話。「都市」に比べて「星」のスペースオペラ部分が貧弱だった。

『猫のゆりかご』(カートヴォネガットジュニア)

馬鹿SF。

 

-----可-----

『バナナ剥きには最適な日々』(円城塔)

「エデン逆行」だけ。そういえば『都市と星』の翻案では。

『楽園 戦略拠点32098』(長谷敏司)

円環少女読めばいい。

『天になき星々の群れ フリーダの世界』(長谷敏司)

同上。メイゼルときずなを別の世界で書いたような作品。

『盤上の夜』(宮内悠介)

ボードゲームSFの短編連作。麻雀を扱った「清められた卓」だけがそこそこ。雀士〈都市の巫女〉を他のプレイヤーの視点から描いた。彼女の異常性の演出には成功していたがタネ*1がクソだった。

 

-----不可-----

ヨハネスブルグの天使たち』(宮内悠介)

駄作。「ロワーサイドの幽霊たち」が辛うじて読めた。隆一に関する掌編が味気なかった。また、〈歌姫〉がイコンとして働いていなかったのが怠かった。そういう意図で登場させたのでないのならもっと意味を剥ぎ取った物体でよかったろう。隆一とDX9とは他でもなく主人公らであるわけで、総括としてつまらなかった、と。DX9によって団地と戦場の風景を連絡させたかったのだろうけれど、それが果たされたのか極めて疑問だ。戦地仕様に改造された幼稚園バスやミサイルの弾道計算に利用されたプレイステーションと同程度の意味合いしか持たなかったんじゃないか。

*1:山の牌が固有振動数で視える