箱庭療法記

人々がきらきらする様子に強い関心があります。

14/05/12 夢日記

夢日記

 

 職員室。双海亜美は連絡用のホワイトボードを見つめている。各教師の割り当てられたクラス、科目が掲示されている。双海亜美双海真美と共に高校教師になっていた。「ピヨちゃんは今年も担任ならずかー」半ば呆れたように二人は話している。音無小鳥は彼女の職場で教員として、そして人間としての尊敬を著しく失っていた。「あれじゃ仕方ないっしょ→」双海姉妹に限らず彼女への評価は低い。若くから趣味に励んでいた音無小鳥は四十を間近にして相変わらず独身、にも関わらず中途半端な結婚願望を残し若い男を求めていた。いよいよ追い詰められた彼女はヒステリックになっていた。花は枯れ栄華は終わった。鍵のない車は錆びるだけだ。

 

 私は職員室の扉を開ける。後期博士課程を卒業しながら希望の職を得られず、失意のうちに母校の物理教師に就任した。事前に職員の顔触れを一覧して驚愕していた。あの音無先生がいらっしゃる!私が学生の頃はそのグラマラスな身体と何より学生への理解ある教師として人気を一手に集めていた。あの音無先生が!私は胸を踊らせていた。しかし、胸の高鳴りは扉を開けると瞬時に消え去った。彼女のデスクが汚い。汚いという言葉では足りない。散乱した書類、食べかけのスナック菓子。我に返って彼女の年齢を数える。私が卒業するときには三十手前だった。9年の大学生活を過ぎた今は?マジかよ。

 

 音無先生が姿を見せた。「あなたが新任の○○先生?若いわね!彼女はいる!?」彼女の記憶には私の名前が残っていなかったようだ。それにしても、初対面で交際者の有無を訊ねるなんて、先生、おいくつでしたっけ?面と向かって聞くわけにもいかない。今年から××高校でお世話になります○○です。よろしくお願いします。恥ずかしながら交際者はいません。曖昧な笑みを浮かべて自己紹介を済ませた。「年上に興味ある?」先生……。適当にあしらった。職員室を見渡すと見知った男性。大学時代は恰幅の良さから△△△と呼ばれていた彼だ。音無先生から逃れたい一心で彼の机に向かった。

 

 初日を終えた私は自宅へ向かう。静かに涙が零れ、やがて声を出して、泣いた。人目を憚る余裕もなくいい大人がわんわんと泣いている。さぞ滑稽な光景だろう。それでも慟哭は已まない。音無先生、僕はあなたに憧れていたんですよ。綺麗でお話もうまくて、きっといい人と一緒になってるって思ってたのに。涙が流れて止まらない。涙腺が涸れる前に家に着いた。ひとりのワンルーム。女性と夜を過ごすなんてことはなく、博士に進んでからは友人すら来たことのない私の部屋。電気を点けて郵便物を確かめる。同窓会の案内だ。

 

 すっかり貧乏が板に付いてしまった私は徒歩で会場へ向かう。遠い。道すがら再会した友人の近況を伺う。スポーツ少年団からずっと●●●やってたじゃん?どうなったんだい?「全国を制覇したぜ」私が辞めてからも彼は続け全国を取った。彼が眩しくなって話題をかえた。会場では政治家になりたかったセイジ君と共にいた。「俺も結局は教師になったよ」へえ「ままならないことばかりさ」俺もだよ「こんなことならお前とコントを続ければよかった」ホントにまったくだ。大学時代が懐かしいよ「つらいな」ああ、本当に辛いよ。

 

 久闊を叙す楽しいひとときのはずが過ぎ去りし黄金の日々を懐かしむだけの会になり、すっかり消沈して帰路を歩いていた。こんなはずじゃなかった。夜の空には星も見えず、見上げた眼鏡に水滴が付いたかと思えば本降りに。深夜の雨は冷たかった。