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箱庭療法記

人々がきらきらする様子に強い関心があります。

16/02/13 七尾百合子と僕

 あなたの手にはスマートフォンがある。
 あなたは電源ボタンを押下する。
 ブラウザを立ち上げる。アプリを起動する。
 あなたがログインすればゲームスタート。あなたもプロデューサーさん。スタミナを消費してBPを使うだけのソーシャルゲームと侮るなかれ。あなたが彼女達に触れれば彼女達はリアクションを返す。頭から爪先まであなたの思い通り。触るも触らないも自由。好きな三人を選んでユニットを決めよう。ユニット名は? 衣装は? ユニットを組んだらフェスに出場してみよう。
 説明は以上。おっと、出勤前にグリコはお忘れなく。
 チャージが済んだら、さあ、出勤だ。

「プロデューサーさん、今日はここで稽古をしているので、何かあったら呼んで下さいね!」

 画面越しに七尾百合子は言った。二〇一六年のバレンタインだった。チョコレートに添えられた手紙は十五歳らしい丸みを帯びた手書き
「プロデューサーとアイドルの、禁断の恋…。世界を敵に回しても、あなたにチョコを届けたい!」
 違う、と僕は思った。
 僕はプロデューサーなんかになりたくない。僕はプロデューサーさんなんかになりたくなかった。
 スタッフになりたかった。
 ファンになりたかった。

 黒子になりたかった。
 一陣の透明なそよ風になりたかった。

 僕はプロデューサーさんなんかになりたくなかった。最初からそんなものになんてなりたくなかった。自分がプロデューサーだなんて僕は宣言したくなかった。
 かわいいものをただかわいいものとして在存させ続けることのできない空間を憎んだ。憎い。そこに恋を介在させないとかわいいものをかわいいと認められない人々を憎んだ。
 だから僕はいまも小説を書き続けている。馬鹿だ、と思う。馬鹿だ。テキストで無明の空間を切り開いて、たくさんの嘘に一握りの真実を混ぜて、道ならぬ非恋に心血を注いでいる。非・ラブストーリー空間。

 小説は僕の祈りだ。