箱庭療法記

人々がきらきらする様子に強い関心があります。

16/06/23 秋月律子さんのいなかった僕の思い出

 秋月律子さんは僕の思い出にいなかった。

  商魂逞しく野望を抱いたアイドル、一八歳の高校生アイドル秋月律子さんはいなかった。

 僕の思い出にいたのは、駆け出しプロデューサーとして竜宮小町を率いる一九歳の秋月律子さんだった。年齢こそ十九歳だったが、彼女の視点はときに大人より大人のそれだった。
 アイドルマスターはオンライン対戦が可能なアーケードゲーム、通称アケマスとして〇五年にローンチされ、一〇年にオフライン化、事実上のサービス終了を迎えた。一六年現在ではその設置店舗も減少し、プレイに必須なカードは在庫切れだ。その間にも大小合わせて三〇〇回超のライブ開催、家庭機への移植、アニメ化、映画化など人気街道を驀進している。
 この巨大コンテンツを、彼女のプロフィールの変遷を抜きに語ることは不可能だろう。
 秋月律子はアケマス時代にはマネジメント業の勉強のためという題目を掲げて事務員からアイドルへと転身する特異な背景を抱えていた。一転してアイドルマスター2とアニメではアイドルを半ばでアイドルを引退した新米プロデューサーだ。その肩書きはシンデレラガールズへのアイドルとしての出演をきっかけに二転三転し、現在ではアイドル兼プロデューサー兼事務員に落ち着いている。だが、その気まぐれは彼女の最初のビジョンを消失させるには十分すぎた。かつての野望――所属事務所からの独立――は忘れられて久しい。
 彼女の背後に捻れた過去が横たわっているからこそ、アケマス以後に参入した僕は僕自身の記憶を偽ることに、僕の思い出にいなかった彼女を追憶することに、並々ならない甘美さを覚えてしまう。思い出はいつだって美しい。それが起こらなかったならなおさら。

 

 

 

 2016年8月12日(金)開催コミックマーケット90 1日目東地区“エ”ブロック-11bの「水色残酷事件」*1にて、アイドルマスター×『廃園の天使』トリビュートアンソロジー『歌姫廃園 ターミナル・パラダイス』を頒布します。

 参加者等々は追って告知します。

 最新情報は主催・吉﨑堅牢のtwitterアカウントもしくはpixivアカウントにて随時、このブログにて定期的に公表されます。

 吉﨑はアーケード版アイドルマスターを舞台にしてそんな感じの秋月律子さんへの感情を濃縮した「さようなら、プロデューサー(仮題)」を書いています。

 刮目せよ。

*1:一号さんのスペースに委託させて頂く運びとなりました。ありがとうございます。