箱庭療法記

人々がきらきらする様子に強い関心があります。

プロデューサーよりひとことふたこと

15/03/18追記

機忍兵は書きました。

追記おわり

 

プロデューサー(以下P)「やあみんな、今日は少しこれまでを振り返ってみたいと思う」

 

七尾百合子(以下百合子)「プロデューサーさん、誰に話しているんですか?」
P「ゴホン、『七尾百合子の図書室の暴走特急』でボツになった案を話すつもりだ」
百合子「プロデューサーさん?」

 

P「まず記念すべきボツ案第一作目はグレッグ・イーガンの『ディアスポラ』だ」
百合子「イーガンなら『しあわせの理由』でお話ししましたよね」
P「ディアスポラは、しあわせの理由の5倍はハードだ」
百合子「私に読めない本なんてありません! どんな本なんですか!?」
P「百合子は冒頭1章でたぶん躓く」
百合子「と言いますと?」
P「〈創出〉は非知性ソフトウェアで、《コニシ》ポリスそのものと同じ時代に起源をもつ。(中略)《コニシ》精神種子は十億のフィールドに分割されている。フィールドとは六ビット長の短いセグメントで、各々がひとつの単純な命令コードを含む。数ダースの命令のシークエンスがシェイバー――精神発生の際に用いられる基本的サブプログラム――を構成する」
百合子「プロデューサーさん?」
P「『ディアスポラの冒頭は積む』、イーガン読者の半分は経験するアレだな」
百合子「よくわかりませんでしたが、要は私には難しいって言いたいんですね」
P「中性子バースト」
百合子「意味はわからないですけど、どんなことが起こるのかはなんとなく予想できますよ」
P「ユニバーサルチューリングマシン
百合子「ユニバーサル、なんですか?」
P「ユニバーサルチューリングマシン、だ」
百合子「?」
P「遷移規則をうまく構成することで、驚くべきことに、いかなるチューリングマシンであろうとも、それを模倣することが可能なチューリングマシン万能チューリングマシン)が可能である。万能チューリングマシンは、与えられた、別のチューリングマシンを記述した記号列と、そのチューリングマシンへの入力記号列を読みこみ、それに従って動く」
百合子「やけにWikipediaっぽい口調になりましたね……」
P「ざっくり説明すると、ソフトウェアから生成された人格がユニバーサルチューリングマシンである〈ワンの絨毯〉に出会って自分たちの出自にアレコレする下りがあってめちゃくちゃエモいんだが、ユニバーサルチューリングマシンの概念をぼんやりとでも理解してないとエモがわからん」
百合子「難しそうですね……」
P「ちなみに俺もよくわかってない」
百合子「ダメじゃないですか!」
P「ということでボツになった」

 

P「第二作目は伊藤計劃の『ハーモニー』だ」
百合子「ハーモニーなら私も読みましたよ。SFらしいSFでしたよね」
P「俺もそう思う」
百合子「何か問題があったんですか?」
P「百合子がハーモニーを読んでなにを感じるか想像つかなかった」
百合子「メタな発言はやめてください!」
P「というのは半分ウソだが、ぐだぐだしてる間に同僚が絶望先生とハーモニーをクロスオーバーさせて俺が書く必要がなくなった」
百合子「?」
P「おまけにハーモニーの解説をしながら自作解題までしやがった」
百合子「本の魅力を解説する方が増えるのはいいことでは?」
P「解説のネタが被るとやる気がなくなるんだな。俺より遥かに上手で深くまで掘り下げてたから」
百合子「プロデューサーさん……」
P「ということでボツだ」

 

P「凡そこの世に非ず、次元の彼方、別の世界より来たる者を忍びと云う、光牙とは光の牙、絶望に抗う伝説の忍び。人は知らぬ、何処より彼等は来たるのか」
百合子「人は問わぬ、何故に彼等は戦うのか」
P「訳は要らぬ、夜の淵より出で、光の牙にて闇を裂く――」
P・百合子「「それが、光牙のさだめなれば」」
百合子「つられて唱和しちゃいましたけどなんなんですかこれは」
P「ボツ三作目、月村了衛の『機忍兵零牙』だ。いまの台詞は俗に〈機忍ポエム〉と呼ばれる」
百合子「裏表紙のあらすじを読むとすごく面白そうですよね」
P「うむ。山田風太郎から連なる忍者モノのひとつだな。ビームを撃ったりシールドを張ったりするぞ」
百合子「!?」
P「他にもゴジラっぽいのが出てきて忍者が殺す」
百合子「なんなんですか、それは」
P「――それが、光牙の定めなれば」
百合子「ごまかさないでください!」
P「あらすじの通り、異世界ゴシック忍者SFだな。スレイヤーのアレとは違ってパンクな要素はない」
百合子「だんだん読んでみたくなってきました」
P「ああ、一押しのSFだ」
百合子「なのに、どうして?」
P「これも偉大なる先駆者がいてだな、俺の知識量だと二番煎じにしかならない」
百合子「えー、そんなのもったいないですよ、あらすじだけでこんなにワクワクできるんですから」
P「ということで、絶賛無期限延期中だ。ボツではない」
百合子「はあ」

 

P「第四作目はフィリップ・K・ディックの「時間飛行士からのささやかな贈物」」
百合子「優しそうなタイトルですね」
P「タイトルはそうだな。中身はPKDお得意の不条理SFだ」
百合子「そういうの、嫌いではないですよ」
P「と思った。どうせ電気羊も読んでるんだろ?」
百合子「ええ、まあ」
P「ただ、このネタは昔使っちゃったんだよな」
百合子「心底どうでもいいです」
P「タイムトリップネタは「ここがウィネトカ、~」始め、ミリフェスの新刊に回収された」
百合子「またメタですか?」

 

P「他にもクラークの『幼年期の終り』、新城カズマの『サマー/タイム/トラベラー』、ピーター・ワッツの『ブラインドサイト』などなど、たくさんネタが浮かんではボツになっている」
百合子「ひとえにプロデューサーさんの力不足のせいです。申し訳ありません」
P「このSSのタイトルだってフレドリック・ブラウンの「スポンサーから一言」の捩りだしな」
百合子「もう突っ込みませんよ?」
P「ブラウンのショートショートは屈指なんだが、ショートショートって解説したら読む必要性なくなっちゃうじゃん?」
百合子「たしかにそうですね。ワンアイディア勝負ですからね」
P「だからボツだ」

 

百合子「そもそも、どうしてこんな企画をやろうなんて考えたんですか?」
P「ミリフェスの原稿が進まない」
百合子「ミリフェスの原稿が進まない」
P「はい」
百合子「亜利沙さんやロコさん、それから私の活躍を書くのがそんなにイヤなんですか?」
P「そんなことはまったくないぞ、むしろいくらでも書きたい気分だ」
百合子「それなら」
P「ひとえにプロデューサーさんの力不足のせいです。申し訳ありません」
百合子「プロデューサーさん、後ろ、後ろ!」
P「?」

秋月律子「プロデューサー殿、遊んでないで仕事してください!」
P「ひえ~、お許しを~」
(プロデューサーが秋月律子に引っ張られて退場する)
(退場するふたりを中心に円。円の外が黒塗りになる。円はやがて小さくなる。F・O。)

 

百合子「MILLION FESTIV@L!!の新刊『空想文学図書館』、読んでくださいね! 私との約束ですよ!」