- 告知
- 副題に関して
- エントリを書いた背景
- 『冴えた約束の破り方』でやりたかったこと
- 「魔法が解けるとき」について
- 『冴えた約束の破り方』が生まれるまで、の前に宣伝
- 『冴えた約束の破り方』が生まれるまで
告知
5月20日のISF03にて松田亜利沙中心の小説本『冴えた約束の破り方』を頒布しました。
【2017年5月20日現在の最新情報を反映】
メロンブックスに委託中。
副題に関して
今回の本は私にとって非常に手応えがあった。これまでの本で最も感情が乗った。したがって「あるいは私のどのようにして同人誌を完成させるのか」ということで今回の同人誌を作ったプロセスを解説していく。ほとんど覚え書きなので「ふ~ん、コイツはこうやって作ってるんだ~」くらいの温度感で読んで頂ければ幸いである。
エントリを書いた背景
2014年春より小説二次創作を始めてから3年余り経った。その間に出した同人誌は10作を数える。私は自分のことをものを書くのが好きな人間だと思っていなかったのだが、案外と楽しんでいるらしい*3。また、世の中には自作模型ができあがるまでを逐一解説してくれるエントリというものがある。私も同人小説でそれをやってみたくなった。
今作『冴えた約束の破り方』は書きながら自分で感極まってしまうほど*4、登場人物たちが感情豊かに動いてくれた。もっとも楽しく書けたに違いない一作である。そこで、松田亜利沙の視点から語られる第1章「魔法が解けるとき」を例に、私がどのようにして今作を書いたか解説する。同人誌を作る楽しさの一端を知って頂ければ幸いだ。
なお、「魔法が解けるとき」はpixivで全文を読むことが可能である。
サンプルの7ページ目以降に組版された全文を掲載。
pixiv小説にベタ打ちで全文掲載。
むろん、メロンブックスの委託ページから現物を取り寄せても構わない。
『冴えた約束の破り方』でやりたかったこと
- 松田亜利沙のきちんとした小説を書きたかった。
- 秋月律子の引退をしっかり書きたかった。
- 青春群像劇をやりたかった。
- 『アイドルマスター relations』をやりたかった。
- ジュリアの話を書いてみたかった。
私は松田亜利沙の小説を一度だけ書いたことがある。2冊目の同人誌の書き下ろしだ。七尾百合子、ロコ、松田亜利沙がライブに出るという話だったと。しかしながら、思い返すにあまりに酷い出来であったため、ウェブ再録さえしていない。また、秋月律子についても同様である。「第三者からの視点から語られる秋月律子の引退」というテーマをライフワークにしていた。昨夏の同人誌で思い切って秋月律子の実存に切り込んだところ、こちらも惨憺たる出来になってしまった。題材こそ優れたものだったはずなのに活かすことができなかったのは、ひとえに作者の力不足であり、非常に忸怩たる思いであった。
したがって『冴えた約束の破り方』についてこう言い表すことも出来るだろう。
リベンジである。
松田亜利沙で秋月律子の引退をやるという案それ自体は、昨夏より前に出ていたと記憶している。そもそもあの話は最終的に星井美希と秋月律子になったものの、当初は松田亜利沙と秋月律子だった*5
閑話休題。とにもかくにも、松田亜利沙と秋月律子でやりたいというのが最初にあった。さんざん扱き下ろしている昨夏の自作であるが、あれにも学びがあった。
「一人を書くには二人を、二人を書くには三人を、コミュニティを書くなら複数の視点を」
その反省は今作に存分に反映された。また、今作を書き始める前にいくつかの青春群像小説を読み込むことで、群像劇の構造を学習し検討を行った。後述するが『檸檬のころ』は特に参考になった。青春群像小説をやるのであれば読んでおいて損はないだろう。
『アイドルマスター relations』とは、上田夢人によって描かれた最高のアイドルマスター漫画のひとつだ。私はいまでも読み返す。 如月千早、星井美希、元如月千早現星井美希Pの3人の間で繰り広げられる三角関係を、荒削りながらも瑞々しく描く。尻切れトンボで終わってしまったのがあまりに残念であった。最高なので読むように。今作でも三角関係を試みたが、紙幅と力量、テーマ設定に問題があったため諦めた。次回以降への課題としたい。
アイドルマスター relations: 1 (REXコミックス)
- 作者: 上田夢人,株式会社バンダイナムコゲームス
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2013/03/27
- メディア: Kindle版
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アイドルマスター relations: 2 (REXコミックス)
- 作者: 上田夢人,株式会社バンダイナムコゲームス
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2013/03/27
- メディア: Kindle版
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また、当初はジュリアと如月千早で短編を書こうと考えていた。今作では松田亜利沙が秋月律子になにかを贈ること自体は早期から決まっており、順当に行けば歌になるだろうと予測された。まさに好機だったのだが、作者の音楽に関する知識の欠乏は深刻極まりないものだった。今作で二人を書くことは早々に諦められた。
最終的に、今作は下記の4人のお話から構成されることとなった。1本だいたい8,000文字程度だ。
福田のり子はリコッタ枠、如月千早はジュリアを登場させようとした名残である。もう一人くらいメインで描いてやれるとよかったのだが紙幅の都合で諦めざるを得なかった。
「魔法が解けるとき」について
横浜DeNAベイスターズの三浦大輔が筒香嘉智に耳打ちするというGIFがある*6。とりあえずじっくり見てほしい。3回くらい通しで見てほしい。
おわかり頂けただろうか? めっちゃ笑顔の三浦(右側)が筒香(左側)に耳打ちすると、それまで口元が緩んでいた筒香の顔色が一瞬で変わる。このGIFを初めて見たとき、私が考えたのは「どうしてここにいるのが黒羽根*7ではなかったのだろう」ということだ。三浦の引退試合に於ける黒羽根の気持ちをやりたかった。
上述した『檸檬のころ』は、基本的に高校生男女二人のラブストーリーが中心に据えられている。ところが、私はむしろその脇で展開される人間関係に心引かれた。最後の章では、大学進学とともに彼氏と別れる女子が最後の春休みの一日をある女友達と過ごす。二人が友情を深めるまでの過程、そして最後に繰り広げられるやりとりがあまりに美しかった。私にもやりたかったし、なんならやれると思った。結果的にもっと上手くやることができた。本編を読んで確かめてほしい。これが私の渾身の一作だ。
また、徳川まつりと松田亜利沙の絡みをなんとしてでも描きたかった。ので、やった。初稿ではもっと濃厚な絡みがあったのだが、編集者の冷静な指摘があったためカットした。どうやら私はメンターとしての徳川まつりのことがどうしようもなく好きなようだ。
第1章「魔法を解いて」は第2章「プロレスラー夜を往く」の後に書いたので描くべき感情はわかっていた。思い返せば序盤をスキップして中盤から先に手をつけるのは有効だったのかもしれない。描くべき感情は中盤以降で高まるべきである。したがって、中盤以降を闊達に書いてから、序盤を『追記』するようなかたちで辻褄を合わせてやれば良い。
写真はネタ帳。ところどころ歯抜けなのは使わなかったネタを別紙に移動させているため。
読み返してみると作者以外にあまり伝わらない気がしてきたが、だいたいこういうことを考えていた。また、あまりなにも考えていないことがわかった。
せっかくなので『冴えた約束の破り方』の企画が萌芽してから結実するまでの過程をネタ帳の記述を一部引用しながらまとめてみた。
『冴えた約束の破り方』が生まれるまで、の前に宣伝
メロンブックスに委託中。
『冴えた約束の破り方』が生まれるまで
ネタ帳の記述を一部引用しながらまとめてみた。雑多なので読み飛ばしてくれても構わない。
2016年11月末 テーマと登場人物模索し始める。
己の奇跡が誰かの奇跡を奪いうる
松田がひとり立ちしてしまうことで秋月がアイドルを辞める???
ノンゼロサムゲーム
もういっこサブテキスト
秋月と松田にひとり足すなら?
→リコッタはないことにしたい
→○○か? 書きにくいからヤダ
当時はまだ3人でやろうとしていたことが垣間見える。PSL編をないことにしたかったらしい。リコッタは結局書くことになった。
2016年12月頭 4人以上を検討し始める。
秋月を除くASを加えると文脈が重くなるからなるべく避けたかったのだが松田、木下なら如月にすると小道具でコンセプトの一貫性が通るのでそちらでの選択となった。
松田→天海は尊敬になるが動機にならない、秋月なら動機になる
カメラを小道具にして一貫性を持たせようとしていた。当時はまだ道具での一貫性に活路を探そうとしていた。この頃は修士論文の中間発表で忙しく、ネタ出しが唯一の娯楽だった。全文の引用はしないが、発足しなかった竜宮小町をリブートさせることも考えていた。
2017年 1月末 松田亜利沙の短編のネタ出しを始める。
松田亜利沙 生涯現役
秋月は読み違える?
まつありの会話に加わる小鳥、小鳥の一人称、隠された情報の提示
松田亜利沙に関するネタ出し。また、音無小鳥の過去に関してなにか企んでいたことがわかる。こちらはボツになったが、秘密を示唆する徳川まつりはそのまま生きている。修士論文の執筆が山を迎えてとにかくネタ出ししかしたくなかった。
2017年 2月頭 表紙の依頼、それに伴うネタのまとめ作業。
表紙イラストをすがるこさんにお願いするため本のコンセプトを書き起こした。『約束』を主軸に据えることがいつの間にか決まっていたらしい。修士論文で気が狂っていたので天から降ってきたと推測される。この時点ではコンセプトのみで、表紙イラストの具体的なイメージはまだない。
ちなみに、私は1冊の同人誌を作るのに約3ヶ月を掛けている。具体的なネタ出しとプロットに1ヶ月、執筆に2ヶ月だ。イラストを依頼する場合、締め切りの2.5ヶ月前には表紙を描いてもらいたい旨を連絡するようにしている。2ヶ月前にはもう少し具体的な表紙案を連絡し、逐次相談している。
企画書を一部引用。表紙イラストを頼む場合には企画書をお送りしている。コンセプト、締め切り、原稿形式、表紙案、謝礼、ラブコールなどを書いている。
細部は大きく変わる可能性がありますが、大筋の「松田亜利沙が秋月律子と約束する」、「松田亜利沙が周囲の人間を巻き込んでなにか作って秋月律子に贈る」は固持します。
細部は企画初段階から大きく変わったが、大筋は固持された。大筋しか残らなかったとも言える。当時は音無小鳥にこだわっていたらしい。また、ジュリアもまだいる。
2017年 2月末 福田のり子の短編のネタ出し
引用はしないが、ほとんど全てのネタが出揃っている。それにしてもいきなりの福田のり子の登場である。元々彼女の話を書きたかったのでリコッタ繋がりでこの機会にというきっかけだったと思う。修士論文を書き上げて異常に活発になっている。
同 タイトルとコンセプトを連絡
企画書その2をお送りした。
がんばって冴えた破り方で約束を破ってもらったが、当時は約束はおろか約束の破り方さえ決まっていなかった。
2017年 3月中旬 福田のり子の短編の初稿が上がる
身内で読み回した。3月上旬のスペインへの卒業旅行を経て、人生最後の春休みは最高潮を迎えていた。アントニオ・ガウディの建築が最高だった。旅先でもネタ出しに励んでいた。写真はアルハンブラ宮殿のテラスで自撮りに励む男性(24)。
2017年 4月中旬 松田亜利沙の短編の初稿が上がる。
4月から働き始めた。しばらくホテルの執筆環境に不満を覚え、Eizoのディスプレイをホテルに導入した。最高。
また、ホテルから引っ越したころにちょうど表紙のラフを頂き異常にテンションが上がる。
2017年 5月頭 如月千早の短編の初稿が上がる。
4月末には上がっているはずだったがインフルエンザで伏せっていた。病床で高熱にうなされながらネタを出していた。写真はネタ出しでお世話になった伊勢崎町のカフェ。マスターがとても気さくな方でほどよい刺激がある。エスプレッソがイチオシ。
5月中旬 秋月律子の短編の初稿が上がる。
最大速度を出して書いた。ゼロから初稿まで3日程度。ランナーズハイでトビながら書き上げた。
同 入稿
最高の同期と飲んで歌って明くる朝に入稿した。写真はその晩に浅草で吸った水タバコ。きちんとした店舗で吸うシーシャは最高。浅草はやや遠いのだがまた行きたい。
同 今に至る
イベント当日を今か今かと待っている。