箱庭療法記

人々がきらきらする様子に強い関心があります。

200504 ホワルバ2(PC版, cc)をGWにやってた話

WHITE ALBUM2』(以下、WA2)の「closing chapter」(以下、cc)をプレイし直した。

2011年発売のゲームだから、いまさら周囲で話題になるのもどちらかといえば思い出話がメインで……というゲームだった。(通信手段が携帯電話だった時代感もあるし、なにより「ノベルゲーム」という形式がメインストリームから外れてどれくらい経つだろう)

けれど、なんと2020年になって初プレイの友人がポップアップ。

しばらくはネタバレをしないよう茶々を入れつつ、いずれプレイを終えたら彼を囲んで当世風のオンライン飲み会で語らおうではないかと思っていた。しかし、わらわらと既プレイヤー同士で思い出話に花を咲かせるものだから、普通にプレイしてしまった。

かいつまんで再発見したことや、変わらず感動したことなど。

なお、ネタバレには配慮しません。

1. 共通ルート

共通ルートでは、ccの主な舞台たる峰城大学の校内ラジオ「峰城ステーション」のジングルから「届かない恋」が流れ、北原春希が冬馬かずさに関する記事を書き上げる一連のシーンが最も印象的。

開桜社編集部の風岡麻理らが峰城大学附属高校から送られたDVDを受け取り、時を同じくして附属では杉浦小春が教師からDVDを手に入れ、和泉千晶の居所には校内ラジオ「峰城ステーション」のジングル。劇団ウァトス代表による主演女優の意味深な紹介が流れ、リクエスト曲は、ボーカル小木曽雪菜で「届かない恋」。

「届かない恋」をバックに、北原は今を生き抜くために3年前の冬馬を回想し、DVDを再生した風岡と杉浦は、場所を隔てながらも北原が回想するその3年前のステージに魅入られていた――ヒロインたちは、ステージ上に立つよく知った男性の、彼女たちに向けられることのなかった素顔を知るのだった。

場所も時間も隔て、北原春希・小木曽雪菜・冬馬かずさ3人の物語がccのヒロインたちに開示される。私はこのシーンが大好きだ。スキップ不可なこのシーンに、私たちプレイヤーはプレイのたびに遭遇することになる。

このシーンは、ccの、ひいてはWA2というゲームを象徴する。

WA2では、誰かの過去、想いについて知ってしまうことによって物語がダイナミズムを帯びる。そのダイナミズムを恐れた北原は、ccでは自身の過去を固く閉ざして、ヒロインたちに自らの過去を開示することはない。

北原の努力は、このジングルが鳴った瞬間に空しく終わるのだ。

このシーンによって、自ら閉ざしてきた過去は、ヒロインたちに開かれてしまったからだ。

風岡は、北原に冬馬かずさの記事を書かせた重みを理解してしまう。

杉浦は、北原が第二音楽室で見せた表情の意味を悟ってしまう。

和泉は――

3年前のステージに立つ北原を知ってしまった彼女たちは、北原の過去を知らなかった頃には戻れない。

共通ルートのミッドポイントに相応しいシーンだ。一連のシークエンスを覚えていたことに感動したし、数年ぶりに確かめて、思わず涙をこぼしてしまった。

なお、私は、このシーンのスキップできない「峰城ステーション」のジングルが好きだったものだから、自分が物語を作るときには絶対に印象的な小道具としてラジオを起用したいと思っていたし、初プレイからおよそ6年後にその願いは叶うことになる。

2. 風岡麻理ルート

風岡麻理との王道めいた濡れ場が少ないことに不満を今回も(当時のように)覚えた。だが、と同時に少ない理由がわかったように思う。まずあのスケジュール感では、以上を入れることは不可能だし、風岡が「弄ばれた」と思うためには、王道めいた濡れ場が少ない方が好ましい。

風岡に割り当てられた濡れ場の数が少ないことによって、風岡自身は、北原が(数少ないはずの)自分と会っていない時間を(自分が知らない)別の本命と過ごしていたのではないかと、2月14日の後に疑念に駆られてしまうのだから。

さて、風岡よりも年上になっていたことに呆然としてしまった。初プレイした時には、19歳だったはずだった。無限の時間と無限の性欲を持った当時の私だったらば、この我が手で王道めいた濡れ場を書くことだってできた可能性が極めて高かったのだが、今となっては、時間もその他も何もかも有限で……。

有限のいまとなっては、風岡を追ってアメリカに飛べる北原の軽やかさがただただ眩しかった。

風岡ルートの北原は、本当にダメで、かなり擁護の余地なくダメダメ(まさにあの王道めいた濡れ場のときには小木曽との関係を明かしている必要があった)だったのだが、それだけに、最後のあの軽やかさがなんとも格好良かったことか。

ccのヒロインの中では風岡が好きだったのだが、むしろ北原を再評価する結果となった。

北原がヒロインについて行く/ついて行かない(行けない)の話はicから繰り返されることになるが、風岡ルートが最も好み。

3. 杉浦小春ルート

杉浦小春ルートは、最後の2枚のスチルのために存在するルートだとすら思っている。

つまり、喫茶店に残る小木曽と、喫茶店から離れる北原/杉浦とが対比される2枚。

北原と別れたときには笑って手を振ってみせたくせに、それから2週間後の杉浦では耐えきることができずに涙を流していた小木曽。

あの小木曽がWA2を通して最も美しい小木曽雪菜だった。

4. 和泉千晶ルート

和泉千晶のことは、初プレイの大学生当時は良く思っていなかった。

あれから年月を経て風岡の年齢さえ上回ったいま、和泉のことを、いじらしくかわいい子(「子」だなんて!)だと感じている。

和泉は、常軌を逸して優れた演技とそのための観察眼を有する人物として描かれる。そし常軌を逸して、それ以外の能力を持たない人物として。

和泉ルートの最終盤、北原は、自らの素性と目的とを隠蔽して接近した和泉の言葉をもう一度だけ信じるために、一つの約束を交わす。

「じゃあ、じゃあさ…本当のこと言うときは合図くれよ。例えばさ、両手を胸に当てるとか」

「俺と約束してくれ…

俺が信じられる千晶を、一つだけでも残してくれ」

舞台「届かない恋」の最後、和泉千晶=瀬之内晶が演じる初芝雪音は、舞台上で宣誓する。

「全てを取ろうとして、全てを失ってもいい。

それでもわたしは、すべてを求め続ける」

初芝雪音は、小木曽雪菜でも、冬馬かずさでもあり…

やがて、両手を胸に当て、北原春希=西村和希に告げるのだった。

「わたし、和希くんのこと、本当に、本当に愛してる!

これだけは真実だって、約束する…」

和泉は、自身のすべてを捧げて作り上げたはずの舞台を、たかが愛の告白のために私物化してしまう。そのいじらしさがなんともかわいらしかった。

また、今回のプレイでようやく気付いた。

和泉のすべてを捧げた告白の時点で、北原は、小木曽に別れを告げている=和泉を選んでいる。にもかかわらず、和泉は、舞台の上に立っている時点で、さらに舞台から降りた後も、この事実に気付いていない。

絶対的な自負を持っていたはずの観察眼は、北原への一世一代の告白では発揮されなかったらしい。

この「気付いていない」という事実に思い至った瞬間、おろかしくも、いじらしく、かわいいやつめ……と再プレイで最も評価が上がった人物。

5. 総括

ccのヒロインのルートを一通りやってみたが、当時よりもシナリオの妙が深く理解できたように思う。とくに、風岡の濡れ場の数、和泉の告白は全然わかっていなかった。

ccでは冬馬かずさの要素が各ヒロインに散らされつつ、フックとして機能しつつも、各ヒロインの全員がまったく別の人物として立ち上がってくるのがなんとも味わい深い。

しかし、音楽が良いのでなんどプレイしても気持ちのいいゲームですね。