箱庭療法記

人々がきらきらする様子に強い関心があります。

220806 ブンカジ練習問題④-2

〈練習問題④〉問二:構成上の反復
語りを短く(七〇〇〜二〇〇〇文字)執筆するが、そこではまず何か発言や行為があってから、そのあとそのエコーや繰り返しとして何らかの発言や行為を(おおむね別の文脈なり別の人なり別の規模で)出すこと。
やりたいのなら物語として完結させてもいいし、語りの断片でもいい。

「宴もタケナワなんですがぁ、ここでぇ」とほとんど呻くような桑島は、飲みの他の三人の参加者からおしぼりをかき集める。北村の隣で桑島はテーブルにおしぼりを広げ、球を作るように折り畳むのだが、酩酊している彼の手元の動きはあやしい。「ボールを作りまぁす。今日は四人だから……四つ!」今にもテーブルに突っ伏しそうな不審な動きながらも着実に球状に成形していく彼のことを、女性二人はどう見ているのだろう――北村は昔読んだ小説に登場した『ハズコン』というワードを思い出していた。ハズレのコンパの略称だ。
「四つ!」
 桑島は甲高く宣言する。そうだね、四つだね。左右の手に二つずつおしぼりボールを持った桑島に対して、「四つあるー」と合いの手を入れる佐倉さんの台詞には、もはや清々しい投げやりささえ感じてしまう。佐倉さんの隣で島井さんの目が死んでいた。大道芸人の話術が優れていたからと言って誤解しないで欲しい。全て台本なのだから。台本なき今、当初持っていたはずの芸人と客という有利な立場を失い、ナンパされた男子大生とした女子大生というさらに有利な立場をも失い、北村と桑島はハズコンで難破していた。
「四つ!」
 再び言うと、アオダイショウみたいにくねくねしていた桑島は、突如として背筋を直線状にした。目が据わり、据わった目で島井さん、佐倉さんの順に見て「四つ」と真面目な口ぶりで言って、事もなげにお手玉を始めた。四つのボールのファウンテン――ボールは左右で行き来せずに、片手でキャッチアンドリリースされ、噴水のように見えることからそう名付けられた。左右で入れ違わないボールはまるでハズコンの僕ら男女の会話みたいだあ、と北村は自分自身もハズコンを構成している事実を棚に上げて無責任さを極める。
「四つ!」
 今度は桑島ではなく、佐倉さんだった。島井さんの目は相変わらずだったが、佐倉さんは四つの飛び交うボールに目を輝かせていた。「えっえっ、投げ方教えてもらってもいいですか」と今日イチで食い気味な彼女に、北村は動揺する。桑島は投げ続けながらヘッドバンギングする。本当にいいんですか。
「四つ!」
 北村は桑島に声をかけ、ジャグルされたままボールをもらい、何回かファウンテンして、そのまま投げ返すと、桑島はキャッチして一礼した。
「四つ! は初心者には難しいから二つから!」
 そんな彼彼彼女に対して島井さんの目は益々の死を浮かべていて、北村は同情を禁じ得ない。しかし、彼女にとってはハズレだろうが、三者にとってはまだハズレと決まったわけではない。

 

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講評ではかなり高い評価でしたが、女性二人が書き割りめいていたのが反省ポイントです。