箱庭療法記

人々がきらきらする様子に強い関心があります。

171213 夢小説を書きました。

 精神が限界になったのでtwitterに投稿していた夢小説をポリッシュしました。

 架空の人物×架空の人物の夢小説です。

  これは架空の人物の話なんですが、いますごく(コンプラ)(コンプラには好きな名前を入れてね)さんのクラスメート男子(受験生、京・工志望)になりたくて。(コンプラ)さんは、大阪の進学校で高校三年生女子高生。しかしそれは世を忍ぶ仮の姿、本当は日本を代表するトップアイドルグループのひとりなんですね。(コンプラ)さんは、苗字に由来したあだ名で「※さん」(※には好きなあだ名を入れてね)と呼ばれているんですよ。
 クラスメートであるところの彼は、「俺たちの※さん」とかね、言うわけですよ。恋人(同、京・医医志望)と、※さんの活躍を我が身のように喜び、励みして受験に挑むんですよ。
 初夏のある日、※さんはとある決意をグループに発表し、次いでクラスメートにも告げる。
「ライブを休んで模試を受ける」
 ファーストアルバムを記念した、グループ初の屋外ライブの欠席。学業の優先。
 彼と彼女は「※さんがあそこまでやるなら」と必死に受験勉強をやっていく。放課後の教室で、学校が閉まれば予備校で、予備校が閉まれば部屋で。互いに励まし合いながら。初の屋外ライブ@富士急を見送ってまで本業の模試を受ける※さんの姿を目にしているんだから、手を抜くことは許されないんですよ。彼には。わかるか? 「アイドルだから」励みになると言ってしまえば簡単だけれど、彼にとってはクラスメートで「俺たちの※さん」なんですよ。アイツがやってるんだから俺たちがやらないわけにはいかない。
 そうして季節は流れていく。彼と彼女が国立二次前最後の、十一月の駿台京大模試を受ける頃、※さんは推薦で大学合格を勝ち取る。世の人は「アイドルだから」と後ろ指をさすかもしれないけれど、彼は知っている。「俺たちの※さん」は間違いなく合格に値するべき人物だし、そうでなくとも、バラエティ番組で時たま見せる微生物マニアな一面が真実のものであることを。十分に認められるべき資格を有していると、彼は恋人やクラスメートと、ささやかながら、ささやかだからこそ忘れがたい祝勝会を開く。「俺たちの※さん」の輝かしい未来に炭酸ジュースで乾杯だ。俺たちのヒーローだ。
 しかし、彼はヒーローではない。
 彼には彼自身の試験があり、要するに彼は受験に失敗する。彼は京・工に進まない。彼は大阪の浪人生だからめでたく難波の駿台へと決まる。一方の恋人氏は難なく志望通りの進路を歩み、どうせ別れるんですよ。私は知っている。宵山の前に別れるんですよ。
 あの夏から季節は一周巡って、富士急に※さんのいなかった、そして彼と同じ教室にいた夏から一年が経つわけだ。夏だ。したがって夏のライブとかあるわけだ。
 彼がガリガリとシャープペンシルを使い潰している駿台大阪南校はなんばに位置し、要するにZeppなんばの近所だ。だから彼は当然に(なんの逡巡もなく)ライブビューイングのチケットを購入する。「俺たちの※さん」が、今度こそ出演する夏のライブのチケットだ。
 さて、ライブ始めのインスト曲で、ライブビューイング会場のみんなが叫ぶわけよ。「※さーん! ※さーん!」って。彼もつられて同じニックネームを銀幕の向こうに投げかけようとする。口を開けて息を吸い込み肺に空気が満ちる。叫べ! 
 しかし。しかし、彼はその名前を叫ぶことができない。涙が止まらないんだ。本当の理由はわかってる。
 もう「俺たちの※さん」じゃないんだ。
 オープニングアクトの前に荷物をまとめる。五〇〇円のドリンクなんか肘掛けに捨てておけ。いま会場は真っ暗になった。一曲目はもう数秒後。彼は光の満ちる会場を目にすることはない。会場のロビーは熱気から隔離されていて、おまけにクーラーまで効いて寒いくらいだ。Tシャツからのぞく腕をこすって自分自身をあたためる。
 防音壁の向こうでは代表曲であるファーストシングルが響いているらしい。※さんのパフォーマンスを目にしないまま彼は立ち去る。
 彼は受験に失敗し、恋人とも別れ、身近なアイドルは画面の向こうに去り、すべてを失ったかもしれないが、それでも失ったものは所詮十八歳時点のものでしかなくて、先にはまだ道がある。「俺たちの※さん」があんなにがんばってるのに、こんなところで立ち止まってて許されるはずがないだろ?
 合格したら握手会で報告でもしようかな、もう俺のことは覚えていないかもしれないけれど。ささやかな誓いを立てる。いや、彼は首を振る。「俺たちの※さん」が忘れるはずがない。きっと、きっと覚えていてくれるはずだ。覚えていてくれたらいいな。
 合格したら確かめに行こう。彼の目に今や涙は無い。瞳には米さんへの感謝と来るべき未来への希望が宿っている。

 私は、そういう架空の人物になりたい。