私は「Slay the Spire」(以下、StS)が大好きだ。累計で300時間くらい(一度Steamのアカウントを爆破したから正確な数値はわからない)は遊んでいるはずだ。StSの魅力についてはもはや私の口から語る意味がないくらい語られているから、省く。
そして、数多のインディーズゲームがStSのフォロワーを志し、朽ち果てていった……。
StSの「一人回しのデッキ構築ゲーム」というコンセプトを彼らオリジナルの要素に足し算して、イビツなプレイ感を残し、Steamのライブラリの底に沈んでいった……。彼らは要素間のシナジーを得ることに失敗し、StSの絶妙なバランス感の再現にも失敗し……。
今回のエントリで紹介したいのは、そんなStSフォロワーの期待の新星「Astrea: Six-Sided Oracles」だ。
前書き
私がStSフォロワーを評価する際の観点は2点だけだ(逆に言うと、その2点をクリアできないフォロワーのなんと多いことか……)。
「Astrea: Six-Sided Oracles」は、この2点をクリアできた(と、少なくとも私は感じることのできた)唯一のゲームだ。
1.フォロワーオリジナルの要素と、StSの「一人回しのデッキ構築ゲーム」要素とのシナジーについて
まず本作のオリジナルの要素の一つ目について。
「Astrea: Six-Sided Oracles」の最大のオリジナルの要素は、デッキをカードではなく6面ダイスで組む点だ(ボードゲーム「ダイスフォージ」と書いて伝わる読者はいるだろうか?)。
ダイスの各面がメリット・デメリットを持っている。そして、メリット・デメリットの数に応じて基本的に3種類のダイスが用意される(敵からドロップする)。5~6面がメリットのセーフダイス(ただし効果は弱い)、3~4面がメリットのバランスダイス、1~2面しかメリットのないリスキーダイス(効果は強烈だ)。例外的に、獲得手段が限られた全面がメリットのエピックダイスもある。
メリット面(便宜上、青面と呼ぶ)は、敵を攻撃・デバフする/プレイヤーを回復・バフすることができる。デメリット面(赤面と呼ぶ)は、逆に、敵を回復・バフする/プレイヤーを攻撃・デバフする。
「ダイスって運ゲーでしょ?」そう思うだろう。
ダイスらしくロールの良し悪しこそあるものの、本作は非常にポジティブな意味でそれをコントロールしている感を与えてくれる。
それが
- リロール(ダイスの振り直し)
- 反転(ダイスの赤面の青面への逆転)
だ。
ダイスの出目をコントロールする手段がプレイヤーに与えられているのだ(そのコントロール自体が青面の一つの効果、いわゆるレリックの効果、そしてキャラクター固有の強化能力でもある)。
このコントロール要素は、二つ目のオリジナル要素に絡む。
と、敵とプレイヤーとで攻撃と回復とを共有し、プレイヤーへの攻撃がプレイヤーの強化に繋がる点だ。攻撃と回復とが有機的に連動している。
詳細に説明する。
まず、敵は体力と、「絶対堕落」と呼ばれる強化要素を持っている。青面を用いてプレイヤーが敵の体力を削り切ると敵は倒れ、逆に、赤面を用いてプレイヤーが敵を回復させると敵の体力が回復しさらに絶対堕落が増加する。絶対堕落が所定の値に達すると敵が強化される(プレイヤーに追加ダメージを与える等)。
プレイヤーは、最大7の体力と、最大3の残機を有している。戦闘で7つの体力が尽きると残機が減り、残機が3つ失われるとゲームオーバーだ。一方で、赤面を用いて体力を減らすとキャラクター固有の強化能力がアンロックされる。ダイスをリロールする、反転する、敵に攻撃する=プレイヤーを回復する等々。青面ではプレイヤーが回復できる。
したがって、プレイヤーに求められるスキルはこうだ。
- 敵に対しては、青面で体力を削ることを最優先にしつつ、「絶対堕落」に達しない程度に赤面を押しつける。
- プレイヤーに対しては、赤面で体力を削り強化能力をアンロックしつつ、体力が尽きない程度に青面で回復する。
要するに、赤面の(一見した)デメリットは、必ずしもデメリットとは限らないのだ。メリット/デメリットをリロール/反転で目まぐるしくコントロールしながら敵を倒していく……。ここに本作「Astrea: Six-Sided Oracles」の最大の魅力が詰まっている。
6面ダイス×4つの初期手札=24面のコントロールはワーキングメモリを猛烈に消耗するが、このシビアさは手なりなプレイを許さない。
「一人回しのデッキ構築ゲーム」要素とのシナジーについて、ほとんど説明し尽くしているのだが、見方を変えて説明してみる。
本作のデッキが青面と赤面とからなるダイスによって構築されていることは上述の通りだが、赤面のデメリットが必ずしもデメリットと限らないことによって、デッキ構築の幅が大幅に広がっているのだ。強烈な赤面を持つ(そしてそれが必ずしもデメリットとは限らない)リスキーダイスは一撃が重いが、薄まった青面を持つセーフダイスにデメリットはない。デッキを圧縮してリスキーダイスの濃度を高めれば遂行速度(敵を倒す速度とは限らないが……)が速まり、デッキを膨らませれば安全に戦える。
6面ダイスの青面と赤面とのバランスを取りながらデッキを組む魅力は、(文字通り)一面的な効果しか持たないカードによるデッキにはなかった魅力だ。
2.勝ちすぎることもなく負けすぎることもない「あと一押しで勝てたのに!」というバランス感
赤面の自傷を強化に転化させる以上、紙一重のダイス運用が求められる。青面だけでは攻撃の濃度が薄まり、赤面が増えれば傷は増える。
手札の引きとダイスの出目が絡む以上、結局は「運」が絡むゲームだ。しかし「運」をコントロールすることはできる(ある程度は、だが)。紙一重の「運」に翻弄される興奮がある。
また、いわゆるレリックもメリット/デメリットが強烈だ。ローリスクローリターンなレリックと、ハイリスクハイリターンなレリックの2種類が用意されている。やはり、前者だけでは遂行速度が遅く、後者だけでは速すぎる。
最後になったが、キャラクターごとに設定された固有の能力もプレイフィールに彩りを与える。リロール/反転を駆使するキャラクター、自傷を駆使するキャラクター等々。一言で言うと、飽きない。StSでキャラクターごとに固有のカードがあったように、本作でもキャラクターごとに固有のダイスが用意されている。それらは、固有の能力をより先鋭化させてくれるものだ。
総じて、メリット/デメリットにメリハリを付けることによって、バランス感、プレイフィールにもメリハリが生まれている。
3.最後に
本作「Astrea: Six-Sided Oracles」は、ダイスのメリット/デメリットの有機性、そのメリット/デメリットのメリハリによって、特有のプレイフィールを生んでいる。これは、(文字通り)一面的な効果しか持たないカードによっては達成されなかったものだ。
そんなオリジナリティ溢れる「Astrea: Six-Sided Oracles」、オススメです。
2024年1月2日
微修正しました。