箱庭療法記

人々がきらきらする様子に強い関心があります。

231002 2023年9月に読んだ本まとめ

本の感想のリアルタイムなまとめは Mastodon 限定コンテンツですが、外向けにもまとめておきたくなったので。定期的にやるかは不明です。

①『パリのエトワール パトリック・デュポン自伝』(パトリック・デュポン) 

②『半導体産業のすべて』(菊地正典)

③『外資系コンサルのリサーチ技法 事象を観察し本質を見抜くスキル[第2版]』(上原優)

④『ゲーム理論の〈裏口〉入門 ボードゲームで学ぶ戦略的思考法』(野田俊也)

⑤『ファシリテーションの教科書』(グロービズ、吉田素文) 

⑥『スクリプトドクターの脚本教室・中級篇』(三宅隆太)

⑦『演劇入門』(平田オリザ

の7冊+『チクタク×10』(ジョン・スラデック)(そのまま読書会に雪崩れ込んだため文章としては残っていません)

ビジネス系3冊、創作術系の本2冊、種本2冊、小説1冊といった感。

10月は既に創作術系の本を2冊読んでおり(再読)、寝る前に『ブッダのことば』(中村元)を眺めています。

そんな感じ。

①『パリのエトワール パトリック・デュポン自伝』(パトリック・デュポン) 

バレエという全く知らない世界の、パトリック・デュポンという全く知らない人物の(いや、バレエ界で知らない人はいないのだろうが、私は知らなかったのだ)自伝で、ほんの参考文献の一冊として読んだつもりだったのに、彼にみるみる魅了されてしまった。
〈アンファン・テリーブル=異端児〉と呼ばれた彼のなんと型破りで情熱的なのか! ダンサーとしてキャリアを積みながら(もちろん、それが彼の最優先で生きる理由の一つだが)、そこに留まらず、芸術監督、俳優、クリエイターとしてマルチに活躍する。そのエネルギッシュな生き方に私まで勇気付けられたら気持ちになれた。
自分の人生を謳歌するってことなんだよな。

 

②『半導体産業のすべて』(菊地正典)

仕事の自己研鑽のために目を通しました、といった感。半導体の初学者向けの一冊。技術書として特筆すべき点はないが、日本メーカーを学ぶには優れているか。
日本メーカーが数多く列挙されているので、同業界に投資したい人は本書で関係図を頭に入れるといいかも。一方、海外メーカー(特に中韓)にはやや弱く、私の知っている限りでもおやおや感はあった。
ところで、筆者は日本電気(現・NEC)から日本半導体製造装置協会という経歴で、日本の半導体の王道を歩んできたはずである。しかしながら、日本の半導体の凋落について、ミクロな観点(曰く、工場の事務的な手続きが煩雑化していた(大意))に留まっており、日米貿易摩擦や為替レートの変化といったマクロな観点が全く欠けていたのが気になった。業界でそれなりの地位に就いた人物の観点がこれなら、そりゃ負けるな、と感じた。

個人的には、こういう、おじいちゃんの本を「必読!」みたいな感じで売り出さんでほしい。

 

③『外資系コンサルのリサーチ技法 事象を観察し本質を見抜くスキル[第2版]』(上原優)

リサーチについて漠然と知られているハウツーを精緻に整理し、抽象化し、その上で具体例を紹介する一冊。リサーチの究極的な目的とは、調査した個別具体的なデータをインフォメーションへと統合し、解釈することでナレッジとし、法則へと昇華しウィズダムを得ることである。(「DIKWピラミッド」として知られる)。このための、調査、統合、解釈および昇華のための紹介する。

まず、リサーチの目的を三つの視点に分解する(リサーチの目的を定めることは当然であり、本書はその先へ進むための一冊である)。
①「答えるべき問い」(≠知りたいファクト)
②「企画のステージ」(①検討に着手するためか、②仮説を立案するためか、③仮説を検証するためか)
③「成果のレベルとまとめるイメージ」(リサーチを誰にどんなレベル感でどれくらいの速さで見せるか)
これら三つの視点に基づいて、リサーチを設計し、実行し、洞察としてアウトプットする。

個人的に新しい知見だったのは、リサーチの技法を、情報を「さがす」技法と「つくる」技法の二つに分類する点。「さがす」技法は、その名の通り、検索=探すための技法である。一方の「つくる」技法は、アンケートやフィールド調査、インタビュー、ワークショップにコミットすることで、情報を自ら作るための技法である。「答えるべき問い」を有していないと「やっただけ」で終わる上に、具体例から抽象化するための技術が必要になる。
私のクセとして「さがす」技法に頼りがちな点があるのだが、インタビューをもっと積極的に実行して「つくる」技法を採り入れていきたい。

 

 

④『ゲーム理論の〈裏口〉入門 ボードゲームで学ぶ戦略的思考法』(野田俊也)

面白かった! けど想定読者が謎すぎる!
ボードゲームを用いてゲーム理論を、入門よりさらに易しく、紹介する一冊。いわゆるゲームをインタラクション=駆け引きのない「パズル」および駆け引きのある「ゲーム」とに分解し、そのトータルとしてのいわゆるゲームの最適戦略をゲーム理論から紐解く。本書はいわゆるゲームの中でも特にボードゲームに焦点を絞る。
ナッシュ均衡囚人のジレンマといったゲーム理論の入門で頻出するものの現実にはどのように適用されているかイマイチ掴みきれない問題を、実際のボードゲームを用いて解説する点で特筆に値する。
さて、ボドゲからゲーム理論を解説するかと思いきや、ゲーム理論からボドゲを解説する側面が強かった。私はボドゲのレビューを読むのが趣味の一つだったためにゲラゲラ笑いながら読むことができたのだが、そういう素地のない読者がどのように本書を受容するのかが謎。いや、面白かったのだけれど、謎ではある。

 

⑤『ファシリテーションの教科書』(グロービズ、吉田素文)

タイトルに偽りアリ!
ファシリテーション』と銘打っているものの、論点はそれより広く深く、より良いファシリテーションを実行するための背景に踏み込む。いわゆる「仮説思考」「論点思考」「クリティカルシンキング」と呼ばれるスキルがファシリテーションのために必要であると説き、その上で、それらのスキルを会議の場でどのように発揮するべきかをイロハから解説する。
仮説とか論点とかクリティカルシンキングとか、いつどうやって使うのかわかんね~~~って人にも、使い方のひとつのケースを提供してくれる意味でオススメです。
私のバイブルとなりうる一冊でした。

 

⑥『スクリプトドクターの脚本教室・中級篇』(三宅隆太)

「「日常的な出来事を扱った良質な短編脚本」を書くのがとても得意」なアマチュア物書きのひと向けの一冊。短編書きの自認を持つ私はターゲット読者なので読みましたという次第です。
細かい話は本書を読んでもらうとして、全然ネガティブな意味ではなく、脚本術の本を読み漁っていた私の知っていること(そして、忘れているとか出来ていないとかしていること)が「お前、これ忘れてるし、出来てないよな」と突きつけられてウググ……苦しい……となりました。そしてやはり全然ネガティブな意味ではなく、これまで拠り所にしていた脚本術の本に立ち返り、何を忘れていて何を出来ないままだったのかを確認したくなりました。
オススメです。 

 

⑦『演劇入門』(平田オリザ

再読に次ぐ再読。バイブル。
『演劇』と銘打って戯曲の書き方を説くように見せる一冊なのであるが、その実は、著者・平田オリザの人間観に関する一冊なのである。したがって氏の人間観を受け入れられるか否かで評価の割れる一冊でもあろう。私は、氏の人間観をいったん受け入れることとしている(いったん、というところに機微を感じてほしい)。
戯曲の書き方のテクニカルな一面を取り上げると「セミパブリック」という概念が本書の幹だろう。パブリックとプライベートとを接続する場。パブリックな場の一方通行な演説とも、プライベートな場の閉じた会話とも異なる、他者との対話が可能となる場である。そこでは、人々がそれぞれ知っている情報に濃淡があるがゆえに、情報の混ざり合いが起きる。セミパブリックこそが観客に驚きを与える場、触媒として作用する。
演技論では上述の「情報の濃淡」をコンテクストの違いと呼び、その違いを身体表現から自在に演じ分けられる役者が優れた役者であると説く。
これだけ読み倒すと新しい発見があるわけではないのだが、小説を考えるときのチェックポイントとして機能してくれる。バイブルです。

セミパブリック」の概念は頭に叩き込んでいても、どうしても(一見して)作劇上はラクだったり魅力的だったりな場に逃げてしまう。(いわゆる「窓辺系」ですな。)いやいや、そうじゃないでしょ、と。事前に頭で汗かいて産みの苦しみでセミパブリックを確立するからこそ 、ラクだったり魅力的だったりな場を作劇できるんでしょ、と。そう戒めてくれる。逆に、どうしても使いたい場所や時間があるなら、なにを足し引きしたらセミパブリックにできるかを考えなきゃいけないんだよな。