本の感想のリアルタイムなまとめは Mastodon 限定コンテンツですが、外向けにもまとめておきたくなったので。定期的にやるかは不明です。
①『結局、仮説で決まる。』(柏木吉基)
②『リサーチのはじめかた』(トーマス・S・マラニー、クリストファー・レア)
③『中国茶の教科書』(今間智子)
④『データ分析に必須の知識・考え方 認知バイアス入門』(山田典一)
⑤『口訳 古事記』(町田康)
⑥『ねじとねじ回し この千年で最高の発明をめぐる物語』(ヴィトルト・リプチンスキ)
⑦『命売ります』(三島由紀夫)
⑧『ジャズの聴き方を見つける本』(富澤えいち)
⑨『なぜAppleは強いのか 製品分解からわかる真の技術力』(清水洋治)
⑩『よくわからないけど、あきらかにすごい人』(穂村弘)
⑪『Google半導体とRISC-Vと世界の電子地政学』(田胡治之)
⑫『夜のピクニック』(恩田陸)
①『結局、仮説で決まる。』(柏木吉基)
仮説の立て方・深め方の how に関する一冊。仮説の出来の良さを決めるのは「網羅性」および「論理性」の二点。では、網羅性および論理性を高めるためには? まで踏み込む。
網羅性とは、言い換えるとアイデアをいかに「思いつき」から離陸させられるかということ。このためにはカテゴリーアプローチと呼ばれる手法が有効。ひとつのアイデアをきっかけとして、その上位概念・下位概念に広げる、その広げた概念をカテゴリー別に整える、整えた概念を反転させる(ある/なし、個人/組織、質/量等々)手法。いわゆるロジックツリーを充実させることで仮説を充実させる。
論理性とは、仮説(上記のロジックツリー)の妥当性をいかに高めるかということ。このためにはアイデア同士を「なぜ」で繋げていくことが重要。
ケーススタディも豊富で、読み物としても面白いか。
仮説に関する本は何冊か読みましたが、仮説思考に関するコンセプトは『仮説思考』(内田和成)、仮説に関するハウは『結局、仮説で決まる。』(柏木吉基)、仮説の一使用例は『ファシリテーションの教科書』(吉田素文)で使い分けるとよいか。
②『リサーチのはじめかた』(トーマス・S・マラニー、クリストファー・レア)
リサーチは「問い」から始めよ。問いは「問題」に洗練せよ。そして、問題を「プロジェクト」に起こし、また「問題集団」と共有せよ。そのために「自分中心の研究者」であれ――。
「自分中心の研究者」とは、自分の内側から湧き上がる声に耳を傾ける研究者である。自分がどんな対象に関心を持っているのか、自分がどんな対象に退屈を感じるのか、自分の興味を検分することで、問いに繋げる。
「問い」とは、一言で言えば、クエスチョンマークで終わるような、自分の関心である。注意されたいのは、ピリオドで終わる「テーマ」ではないということだ。問いはどれだけ多くても構わない(むしろ多い方が望ましい)が、それぞれの問いは狭く具体的であるべきだ。
問いを洗い出したら、わかりやすさ、反証可能性、無視、明確性を有しているかどうかをテストする。さらに、それらの問いに答えるならばどのような資料があらかじめ必要かを想像する。このように問いの具体化を進める。
ここまでのプロセスで重要なのは、問いの洗い出し、具体化はあくまで自分の内側から行う点だ。まだ資料の深掘りはしない。
すると、いくつもの問いを発見するだろう。これらの問いの根底には、深く一般的な「問題」が横たわっているだろう。点のように散らばった問いを線で結んで大きな絵を描くようなイメージで、問題を描き出す。ここでようやく資料の登場だ。資料から問いを引き出すのだ。一つの資料を多くの視点から検めてみる。結果として、問いが生まれていることだろう。言い換えると、問いと問題とは、行ったり来たりの関係にある。線つなぎゲームのように、点を繋げるために問題を想像し、問題を想像するために問いを立てる。
続いて、問題を「プロジェクト」として設計し直す。上述の線つなぎゲームを成功させるためにはどんな資料が必要かを検討していく。プロジェクトの成功を思い描くのだ。これは、(自分中心の研究者でありながら)外向けの言葉も持った研究者へとなるということでもある。
最後に「問題集団」と問題を共有する。自分の問題と同様の問題を抱えた集団と知見を交換するのである。このために重要なのは、問題集団の問題と、自分の真の問題との共通項を探し出すことである。例えば、自分の問題の変数を一つずつ入れ替えてみることは共通項を発見する有効な手段だ。変えた時に問題への興味が変わらない変数は、真の問題のための変数ではない。真の問題のための必須の変数とは、入れ替えた時に退屈になってしまうような――逆に言うと、入れ替えられない変数である。
最後の最後に、問い-問題-問題集団へのアプローチを、外向けの言葉で書くことでリサーチは完了する。
リサーチに必要なプロセスが明晰に説明されており、リサーチを行う時に立ち戻りたい一冊だった。
そしてもちろん、この手法は「リサーチ」に限られず、小説の執筆にも流用できるだろう。人は誰しも興味というものを持っている。その興味とは、その人のアイデンティティでもある。その人の興味から問いを立て、問題へと昇華し、外向けの言葉に変換することは、アイデンティティを探索(=リサーチ)するために、強力なプロセスとなってくれるだろう。特に、「変数入れ替え」は興味を明瞭にするために有効だろう。
③『中国茶の教科書』(今間智子)
中国茶を自分でも淹れようと茶器を注文したので、これでお勉強。網羅的で助かる。これ一冊で茶葉の種類、歴史、産地、茶器の種類、使い方等々を網羅的に知ることができる。茶葉を買うときに参考にしよう。
④『データ分析に必須の知識・考え方 認知バイアス入門』(山田典一)
私は「認知バイアス」と聞くと、いわゆる「統計的バイアス」(誤差、疑似相関、交絡等)を真っ先に思い出した。しかしながら、統計的バイアスは数多ある認知バイアスの一つに過ぎない。そんな多様な認知バイアスに、認知の働き――記憶/認識/判断の三つの機能からアプローチする。
記憶の側面からは、私たちの記憶の機能の不確かさが解説される。記憶は固定されたものではなく、思い出す度に再構成される。再構成のされ方も、思い出すシチュエーションによって一定ではない。
認識の側面からは、私たちは「正確さ」以外のファクターに左右されることが示される。いわゆるステレオタイプやナラティブが私たちの認知に介入する。
そして、判断の際には、概して「自分の考えに都合の良い情報を探す傾向」があると説く。
では、私たちはどのようにして認知バイアスを回避することができるのだろうか? 一言で言えば、「いちど立ち止まって考え直すこと」だ。上述のバイアスは、いずれも、認知に掛かる(心理的な)コストを減らすために生じるバイアスである。認知のためにコストを払うことを怠ってはいけない。
⑤『口訳 古事記』(町田康)
むっさ面白かったがな。
コテコテの大阪弁(河内弁)で繰り広げられるヤンキーな神々、ヤンキーな皇族の、ファンキーな治世が描かれる。はっきり言って、めっちゃ笑えるのである。 皇族は気まぐれであるが、神々は輪をかけて気まぐれである。臣民にはそのご意図は推し図ねる。
それはそれとして、イザナミ、イザナギやニニギノミコト等々、なんとなしに聞いたことあるけど何したかは知らん神々の行いを知ることができたのでお得感がある。
⑥『ねじとねじ回し この千年で最高の発明をめぐる物語』(ヴィトルト・リプチンスキ)
「このミレニアム(千年)で最高の道具についてエッセイを書いてくれ」
そう依頼された著者が、最高の道具として「ねじ」と「ねじ回し」を発見し、それらの歴史を紐解く一冊。こんにちの私たちが使っている「ねじ」が産業化されたのは明らかに産業革命のころだ。しかしながら、「ねじ」「ねじ回し」(そして付随する「ナット」)の概念が発明され、現実化され、組み合わされて用いられるようになったのかは不明であった。著者は、中世の歴史書や道具を丹念に調べ上げ、その歴史を明らかにした。その意味で本書は、まごうことなき歴史書である。
文庫150ページほどと短いが、ねじや工具の動きを想像しながら読むことになるため、なかなかに頭の体操になる本でもある。
⑦『命売ります』(三島由紀夫)
自殺に失敗して命を投げ出したヤレヤレ系の男が、惨めったらしく命に固執するようになるお話。軽い筆致で進みながらも次第に心情が重たくなっていくところに読み応えがあった。ある種のラノベっぽさも感じた。
⑧『ジャズの聴き方を見つける本』(富澤えいち)
実は本腰を入れて勉強してるんですよ、ジャズを。いわゆる「名盤」と呼ばれるディスクの各曲を、ディスクレビュー本を併読しながら聴き込んでいます。これが面白くて面白くて。これまで漠然と聞き流していたサウンドをどう聴けばいいかわかってきたのよね。そうして、自分の中にジャンルの体系が出来上がっていくのが気持ちいい。
そういう背景で読んだこの一冊。アメリカでのジャズの興りから現代に至るまでを概観する。Wikipediaを読むよりも確からしいが、サウンドの聴き方という意味ではやや弱かった。ただ、日本のジャズの現場への出方が書かれていたのはレアか。
⑨『なぜAppleは強いのか 製品分解からわかる真の技術力』(清水洋治)
Appleの各製品を分解し豊富な写真を用いて年代順に比較することで、それらがどのように進化したかを示す一冊。Appleが半導体の内製化を進めている話は知識としては持っていたが、内実としてはぜんぜん知らなかった。本書は、まさにその部分を埋めてくれる。
最も興味深かったのは、AppleがiPhone、iPad、MacBookおよびiMacの間で一つの種類のチップを共有しており、さらにチップ同士を足し合わせることで性能を向上させ各製品に求められるスペックに対応している点。同じ思想は、AirPodsの通信部にもあるとのこと。内製化の威力を感じた。
⑩『よくわからないけど、あきらかにすごい人』(穂村弘)
THE BLUE HEARTSの甲本ヒロトと歌人・穂村弘との対談が掲載とのことで、それを目当てに読みました(あと詩人・谷川俊太郎と。他にも多くの創作者との対談があるのだが、彼らの創作物を知らないので読まなかった)。
大前提、私、甲本ヒロトと相方の真島昌利が大好きなんですよね。THE BLUE HEARTS、THE HIGH-LOWS、ザ・クロマニヨンズ、そしてソロ活動も。全部好き。いつも、どんな年齢のときもずっと格好いいんですよ。
本書の対談は、そんなファンが私だけじゃないんだって、甲本ヒロトの声はもちろんなんだけど、熱狂的なファンのひとりとしての穂村弘にも出会えて嬉しかった。甲本ヒロトの表現についての言説って、THE BLUE HEARTSで止まってることが少なくなくて。でも、穂村弘はザ・クロマニヨンズまで追ってて、それを甲本ヒロトにぶつけてる。過去ではなく現在の甲本ヒロトを尊重した対談で、そして甲本ヒロト自身もきちんと答えを返している。表現のキャッチボール。ちょっと泣いた。ファンは必読です。
⑪『Google半導体とRISC-Vと世界の電子地政学』(田胡治之)
半導体はハードとソフトとが高度に融合した賜物である。ハードとしては、純度99.999999999%のシリコンを千に及ぶステップで加工して製品化されたものが「半導体」である。しかしながら、半導体はモノが出来ただけでは動作しない。ソフトとしての半導体が計算(その通り、単純な計算から、画像の表示から、機械学習まであらゆる用途)をするためには、適切な「命令セット」が組み込まれなければならない。
本書はその「命令セット」のうち、GoogleとアメリカのDARPAが開発したオープンソースな「RISC-V」を解説した一冊である。なお、「命令セット」の現在の覇者は、ソフトバンク傘下のArmである。
RISC-Vの利点とは、一言で言えば、オープンソースであることだ。これにより、半導体メーカーはライセンス料や特許料を支払う必要がなく、安価に容易に半導体を設計することができる。その手軽さは、他のメーカーの呼び水となる。別の言い方をすると、オープンソースであることによりRISC-Vのエコシステムが強化される。また、オープンソースであることにより、広いユーザーから改善を求めることができる。半導体の「民主化」に繋がるシステムである。
電子地政学の一冊としては、日中韓台以外のアジア――インドおよびベトナムの半導体産業の紹介があったのはレア。類書を多く読んできたが、この二カ国は初めて目にした。また、ラピダスに冷静な視線(仮に2nmを達成できたとしてもエンドユーザーが日本には存在しない)を向けていたのも好印象。
半導体産業の裾野の広さをひしひしと感じさせられた。
⑫『夜のピクニック』(恩田陸)
実は読了してなかったシリーズ。うーん、どうなんだろう。舞台も登場人物もその関係も魅力的なのだけれど、ぜんぶ喋りすぎだな。もっと口数少ない方が好みだ。完全に私の好みの問題です。
ただ、読む機を逸していた感があって、これは中高生のときに読まなきゃいけなかった本でもある気がするんだよな。大学生でも遅い。無理矢理に集められた「学級」の雑多さとか、無理矢理に参加しないといけない「学校行事」への期待の諦め切れなさとか。そういうのがアクチュアルな時に読まないといけなかった。
我が身を振り返ってみて、学校行事にも部活にもフルコミットした満足感はあれど後悔もある。高校3年生のクラス。仲の良いやつがいなくて(当時の私はガードを上げていたし、そうでなくてもグループができあがっていた)、そういう、誰とも連めない奴らと連んでいた。もう大半は名前も思い出せない。それが残念だ。
そういうことを思い出させてくれたから、いい小説だったのかもなー。ただ、おしゃべり過ぎな小説な気もするんだよなー。
3/4くらいのスケール感だったらクリティカルヒットしてたんじゃないかな。要素は全部好きです。雰囲気も好きです。ただ、しゃべりすぎ。
私の好みではないけど爆裂にヒットしたということで、研究の余地はあろうが、うーん。