箱庭療法記

人々がきらきらする様子に強い関心があります。

16/02/13 七尾百合子と僕

 あなたの手にはスマートフォンがある。
 あなたは電源ボタンを押下する。
 ブラウザを立ち上げる。アプリを起動する。
 あなたがログインすればゲームスタート。あなたもプロデューサーさん。スタミナを消費してBPを使うだけのソーシャルゲームと侮るなかれ。あなたが彼女達に触れれば彼女達はリアクションを返す。頭から爪先まであなたの思い通り。触るも触らないも自由。好きな三人を選んでユニットを決めよう。ユニット名は? 衣装は? ユニットを組んだらフェスに出場してみよう。
 説明は以上。おっと、出勤前にグリコはお忘れなく。
 チャージが済んだら、さあ、出勤だ。

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15/12/31 今年読んでよかった小説5選

 今年はSFから幻想文学に軸足を移しつつやっぱりSFから離れられず、みたいな読書をしていました。外宇宙よりは内宇宙(ルビ: インナーユニバース)に惹かれるようになってきています。2016年こそは『ヴァリス』シリーズを読みたいですね。

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15/10/25 『百合の名前』あとがき(あるいは祭りの後)

永遠じゃなくたって価値がある夜

カーニバルみたいな光を放つ

――「ジョニー・ストロボ」(作詞: 山中さわお)

 

 ISFを企画してくださったスタッフのみなさま、参加されたみなさま、ありがとうございました。そして、寄稿してくださった作家のみなさまと、ありがたくも七尾コスで売り子を務めてくださったあまこさんに、この場を借りて深く御礼申し上げます。ありがとうございました。

 さて、あとがきです。

 あとがきというか舞台裏というかこぼれ話。できれば『百合の名前』をお読みになってからこのエントリを読んでくださると助かりますが、ぶっちゃけ内容にはそんなに触れないつもりなので適当に。

 企画を立てたのは6月の半ばでした。

 4月の歌姫7に出たすぐ後には、10月25日のISFと9月22日の歌姫8に出るぞと決めてて5月には歌姫の『雪のゆりかご』は考えてました。この時にはアンソロはまだ別の長篇のつもりでした*1。能力が足りなくて諦めました。振り返ってみても『雪のゆりかご』でかなり時間を食ってたので長篇だったら間に合ってなかったように思えます。それでもなにか出したいにゃ~~~とやってて出てきたのが小説アンソロでした。4月のがアンソロみたいな体裁だったんですけど、たしかにゲストさんが多いけどアンソロっぽくはないし*2、うーん、せや、挿絵もお願いしたら七尾のイラストが増えるやんけ天才やん、と気付きを得て即企画即スカウトと相成りました。

 せっかくなら打率10割を目指すぞ、しかも他では読めない作家さんに書いてもらうぞ、さらにすぐ読める本にするぞ*3、と「私が読みたい方」で「個人誌を出されたことのない方」に「A5二段組みで18ページ以内」でお願いしました。個人的にアンソロジーと合同誌はスカウティング方式の方が打率が高いと認識していたので、そういう意識もありました。おかげさまで、小説の方は間違いなく胸を張って「これはおもしろい」と呼べるものが集まってくれました。本当によかった。イラストレーターさんは、七尾のイラストを描かれている方で交流を持っていた方でした。ありがてえとしか言えないですね。とgさんの表紙がまた一段と凝っていらして中身を読んでから表紙をまじまじと見つめると思わず感嘆のため息が漏れてしまう。最高ですね。あと、これはめちゃめちゃ大切なことなんですが、かわいい。すごい。とてもかわいい。

 で、なんの話だっけ。

 ありとあらゆるイラストがかわいいし、お話も信頼できる方に頼んでよかった、という話でした。

 これのエントリは、イベントから帰宅して*4、ああ、悪くない人生だったな、と振り返りながら書いているんですが、最近はイベント返りには決まってthe pillowsの「ジョニー・ストロボ」を聴いています。

 イベント前日の夕方には、イベントが楽しみすぎて明日が来て欲しくない、ずっとこの時間が、緊張が、高揚が、不安が、歓喜が、なにもかもがずっとずっと続いてほしいビューティフルなドリーマーになりたいなどと思っていたし、当日朝にも、当日昼間にも、閉会間際にも、イベントが終わってからでさえもイベントよ終わるな終わるなこの時間よ続いてくれ時間よ止まれと願っていたのですが、やっぱり何事にも終わりは来るし、ああ、やっぱり夜は来るんだな、そして明日が昨日になり過去になりやがて靄の掛かった遠くに消え去ったとしても、永遠じゃなくたって価値がある夜がカーニバルみたいな光を放っていたのだなあ、と思い返すんだろうな、と夜空を見ていました。

*1:とある現代日本SFとアケマスとミリオンライブでクロスできないか考えてました。文体模倣ができそうになかったので諦めましたが。

*2:私にとっては『個人誌』のつもりだった。

*3:長いの書ける人は個人誌出してくれ

*4:イベント後に多くの作家さんは打ち上げに行かれたのですが、私は明日から地獄が待っているので早々に帰宅しました。

15/10/12 つぎの○○○につづく (七尾と小説と同人)

『七尾百合子と小説二次創作の相性が良い』

 日夜回す七尾と小説サーチタブにはよくこんな感想が入ってくる。小説二次創作を書いている身からするとそれなりに正しく思えるが、私は彼女以外の二次創作を書いていないので比較はできない。彼女の好きな小説ネタを埋め込むのに小説媒体は適しているのだろうが、テクニックの問題であろう、漫画でも同様だろうか。漫画は描けないからわからない。どちらにせよ、それなりに正しいだろう。あるいは

『七尾百合子の二次創作は小説が多いね』

 こうなると私は首を傾げてしまう。私の把握している限りでは、彼女単独の二次創作小説を同人誌形態で頒布したサークルは2つしかない*1。pixiv小説になると、これは完全に誤りで、北沢志保の方が多い。もっとも彼女に関して言えばそもそもの母数が多いから、ファンアート全体に占める小説の割合は変わるのかもしれないが*22ちゃんねるに投稿されたものは知らない。私の興味の埒外だから。

 単に弊サークルの本がそれともpixiv小説が目立っているだけで数が水増しされているように見えるというのがもっともらしい。ちなみに近日頒布される七尾百合子小説アンソロジーであるが、私を含めた小説寄稿者6人のうち5人は私か、私に「お前、小説書けたよな?」と引きずり込まれた人間で、こうなると水増しというかリクルーティングの成果だろう。

 

 さて、エイヤっと書き始めて1年と半年でいっぱしの小説同人作家となってしまったのだが、実は小説よりは漫画で二次創作を描きたかった。だって、そうだろう? 小説なんて読むのに時間が掛かるし、ページも嵩むし、それよりなにより、浸透しない。twitterを見てごらん。日夜ファンアートイラストが生産され、回覧され、浸透している。ある時には丁寧に描き込まれたフルカラーのイラストで、またある時はワンシーンを切り取った漫画で、それとも別の時には走り書きで。しかし、どんなかたちであれ、小説を書いてはpixivに投げ同人誌を出しtwitterで知らせている身としては、小説より見られているという体感がある。考察よりはまだマシだろうけれど。あれは議論を引き起こすかもしれないが、読者になにかを残すことは稀だ。反応を見る限りでは既に持っている認知を強化するだけに思われる。

 ミームの貫徹力とでも呼ぼうか。

 イラストや漫画の方が小説よりソーシャルネットワークでは強い。*3

 だから私は本当は漫画を描きたかった。

 けれど、小説しか書けなかった。私が彼女を書きたい/描きたいと願ったときに、お絵描きの能力をのんびりと涵養するだけの猶予はなかった。しかし小説なら書くことができた。毎日のように、というか毎日、twitterで何らかの文字列を打っていたし、その前はmixiでblogでとにかく何かを書いていたから、小説なら書けると思うことが出来た。

 したがって私の目標は、漫画やイラストに匹敵するだけの貫徹力を持った小説を書くことと定まった。

 実際、小説そのものは書くことができたし、執筆活動は楽しかった、とても楽しい。

 紙面で彼女らが自由に踊る姿は喜びそのものである。

 小説と呼ぶにはお粗末な小咄*4を月2本程度のペースで書き始めたのが2014年の4月、やがてみるみる書けるようになり、ほとんど面白半分でというかより強い貫徹力を求めて同人誌を出すことになったのが同年7月、スタートから1クールで同人誌を決めたの阿呆なのではと思わないでもないがいつの間にかそうなっていた、8月に院試に落ちたり9月に頒布したり繰り上がりで受かったり、9月に頒布した勢いそのままで11月のイベントに申し込んだり。そこからは卒論があったからペースが落ち込んだりしたが、高山の誕生日の12月と七尾の誕生日の3月にはそれなりにまとまった文量を書いたりした。年度が変わって2015年の4月には3冊目の同人誌。ここらで同人誌を配ることそのものの楽しさに気付く*5。単に書いてweb媒体に投稿するだけのそれより面白いことに、つまり、納期を決めて、スケールを決めて、イラストをお願いして、小説を書いて、納入して、頒布する、イベント一連の手続き自体にも楽しさがあることに気付いた。

 そして9月に4冊目を出した。こちらは自分でもようやくちょっとだけ感心できるような文量とそれに見合った物語を有しているように思えた。ありがたい感想もちょいちょいと頂けている。作者冥利に尽きる。10月には小説アンソロジー。実は企画は4冊目より先に立っていた*6が、それはそれとして5冊目である。

 最初の1本から1年と半年、ようやく感触を掴むことができた。貫徹力を有した小説を書くことができたと思えるようになった。

 6冊目、7冊目と続けたい。

 6冊目はネタを温めている。

 7冊目は彼女の名前に因んだものにしたい。

 しかし、私は学生であり、私には学生生活があり、つまり私には就職活動や研究があり、使える時間はみるみる少なくなっていく。既にpixivに投げなくなってから久しく経っており、自分自身でも危機感を抱いている*7。周囲には研究と同人活動を高い水準で維持している同人作家が二人いて、私は氏らを尊敬している。

 あと何冊、あと何本書けるのだろう。

 書き終えて、ああ、書いてて良かったな、そう思える瞬間をあとなんど迎えられるのだろう。

 もっと書きたい。

*1:弊サークルと近未来工房

*2:面倒くさいから私は調べない。勝手にやってくれ。やったら教えてくれ。

*3:ここでの「強い」とは「多くの人に見られ、結果、より多くのインプレッションを発生させる」くらいの意味。

*4:最初は彼女が本について喋るラジオ番組という極めて単純な舞台設定と同じく単純なテーマだった。とある同人作家に「お前のそれは小説ではない」などと有り難いお言葉を頂いたが、お前の小説論なんて知るかとっととくたばっちまえと思っている。

*5:11月のイベントは私事で参加できなかったのだ。

*6:次回の後書きで書きたい

*7:カジュアルに読める場所に置いておくことはミームを播種させるのにもっとも大切なことのひとつだ。