箱庭療法記

人々がきらきらする様子に強い関心があります。

220820 ブンカジ練習問題⑤

〈練習問題⑤〉簡潔性
一段落から一ページ(四〇〇〜七〇〇文字)で、形容詞も副詞も使わずに、何かを描写する語りの文章を書くこと。会話はなし。
要点は、情景(シーン)や動き(アクション)のあざやかな描写を、動詞・名詞・代名詞・助詞だけを用いて行うことだ。
時間表現の副詞(〈それから〉〈次に〉〈後で〉など)は、必要なら用いてよいが、節約するべし。簡素につとめよ。
現在、長めの作品に取り組んでいるなら、これから書く段落やページを今回の課題として執筆してみるのもいいだろう。
すでに書き上げた文章を、磨いて〈簡潔に〉仕上げるのもよい。

 落とせ! 落とせ! 最後の喝采は俺のだ!
 ジャグラーが道具を落とすことを、ジャグラー自身が祈るなんて狂気の沙汰だ。しかし、俺は念じずにはいられない。この体育館での唯一のルールのは最後までクラブを投げ切ることだけだから。真夏の閉め切られた体育館の熱気は俺たちの正気を奪う。落としたヤツから脱落だ! 俺は、俺の隣で投げ続ける男に向かって願う。隣の男も口を真一文字に結んで決死の形相。俺たち二人が願うは一つだろう。
 落とせ! 落とせ! 最後の喝采は俺のだ!
 スポーツマンシップとか絵空事はクソ食らえ。他人の失敗(ドロップ)こそ蜜の味。二人まで減ったジャグラーたちの耐久レース。サークル交流会ってことで、最初は全国の腕の立つ大学生十人強が投げていたものの、残るは俺と一人だけだ。
 落とせ! 落とせ! 最後の喝采は俺のだ!
 第一投から、五分をお知らせします――俺の体内時計が時報を鳴らす。
 投げた数はカウントしているから、投げた数掛けることの一投当たりの秒数で何秒投げたか概算できる。五分か……。俺のハイスコアって五分と何秒だっけ。意識した瞬間、汗を吸ったTシャツが体に貼り付き、雑念が俺のクラブに纏わり付く。物理学実験で使った鉛の手触りを思い出した。
 時報を聞くべきじゃなかった! 算数が先行して俺の狂気が奪われる。
 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ゴフン、ジュウ、ビョウ、ヲ、オシラセシマス。
 落とせ、落としてくれ、落としてください……。

 

  ***

 

今回も好評でした。ありがとうございます。

「意識の流れがある」とのコメントを頂きましたが、個人的にはあまり意識していないポイントだった(一人称しか書いたことなしなので無意識にこうなりがちな)ので、今後ちょっと意識してみようかなと思いました。

 

考えてるジャグリング小説の北村くんのラフスケッチがどんどん増えていく。