年齢を重ねるにつれて友人を作るのは難しくなるものだと聞くが(そして初めて聞いたときは鼻で笑っていたが)年齢を重ねるにつれてどうやらどんどん真実味を帯びてくる。
こんな折だから知人以上ダチ公未満みたいな集まり(そういう催しが大好きだ)に参加するワケにもいかず、悶々とした日々を過ごしていたらば、古い友人から「お前は絶対に好きだから読め」と漫画を勧められた一冊がこのエントリで紹介する一冊。
彼も私も地方の公立進学高校から都会のいわゆる旧帝大に進んだ、この一冊の登場人物と背景を共有する、当時は17-18歳の理系クラスで、今はアラウンドサーティです。
宇仁田ゆみで『クレッシェンドで進め』。
「最後のセンター試験」を控えた高校三年生が夏前に迎えた、校内コーラス大会のお話。
曲目決めからパート分け、練習を乗り越えて本番……と出来事だけ書き連ねてしまえば驚くほどにあっという間だ。そもそも1クラスの群像劇をやるには、単行本1冊では駆け足になってしまうのだ……。
しかし、『クレッシェンドで進め』の駆け足感は、まさに高校3年生のあっという間の夏の雰囲気を醸し出すことに成功している。
そこかしこに恋や、淡い憧れの予感が満ちている。
文化委員の男子の視線の先にいる文化委員の女子は、伴奏者の無造作な髪と猫背を見ており、その猫背はお団子ヘアーの活発な女性に頬を赤らめる……。1クラス分の人間関係をこうした「予感」に留めることで、想像の余白を生んでいる。
想像の余白はあるけれど、その先は描かれない。
余白に描かれることが期待される決定的な瞬間は、読者には閉じられている。
やがてその期待は、一大イベントのお祭り騒ぎのムーヴメントに浚われて、どこかに行ってしまう。
高校三年生の夏は、いつまでも期待に足を止めていられるほどヒマじゃなかったはずだ。
ああ、この漫画は、あの日を過ごした俺のための漫画なんだな……と涙ぐんでいると、やがて「最後のセンター試験」が単なるアクセントなのではないことを思い知ることになる。